言葉の名手たちによる往復書簡は、あなた自身の言葉も育んでくれるはず。
選書してくれたのは、本屋&ギャラリー&カフェ『twililight』を営む熊谷充紘さん。
誰かに言葉を贈る際の手がかりにも。
『あとは切手を、一枚貼るだけ』
小川 洋子、堀江 敏幸 著(中公文庫)
小川洋子×堀江敏幸
ともに芥川賞作家の小川洋子と堀江敏幸による14通の往復書簡小説。まぶたを閉じて生きると決めた「私」と、視力を失った「僕」はかつて夫婦であった。この2人が手紙をやりとりする中で過去や秘密が少しずつ明らかになっていく。著者特別対談も収録。「大事なのは「大切な人を思う」という温かい設定」(堀江)。「離れ離れになった者でさえ、こんなに親密に語り合えることを、この本は証明している」(小川)。親愛なる気落ちを表現するさまざまなイメージが散りばめられています。
『なしのたわむれ
古典と古楽をめぐる手紙』
小津夜景、須藤岳史 著(素粒社)
小津夜景×須藤岳史
フランス・ニース在住の俳人と、オランダ・ハーグ在住の古楽器奏者による往復書簡。「クリスマスイヴはいかがでしたか?(略)デザートは年末らしく溝口健二の『元禄忠臣蔵』を観ながらトレーズ・デセールをつまみました」(小津)。時候の挨拶から、思い浮かんだことを書き連ね、俳句や詩を時々引用する。エレガントな二人のやりとりは思わず真似したくなる。「思いついたことを終着点の検討もつけずに、そのまま書いてしまうこともある(略)語りきれなかったことは「またいつか」という未来の時間を祝福している」(須藤)。
『何卒よろしくお願いいたします』
イ・ラン、いがらしみきお 著
(タバブックス)
イ・ラン×いがらしみきお
韓国のアーティスト イ・ランと『ぼのぼの』の漫画家いがらしみきおによる往復書簡。神、経済、AI、哲学、映画、家族について。「苦難の中で生きている人は尊い人だと思います。誰にとって尊いのかというと、私にとってであるし、私以外の誰かにとってであるし、世界中の苦難の中で生きている人にとってです」(いがらし)。互いの思考に耳を傾け、考えを深めていく二人の言葉が読む者の心も晴らしてくれる。相手を深く思う言葉には自然と愛が宿ると教えてくれます。
『往復書簡 ひとりになること
花をおくるよ』
植本一子、滝口悠生 著
植本一子×滝口悠生
写真家の植本一子と、小説家の滝口悠生による往復書簡。子どもを育てること、自分の親のこと、小説を書くこと、日記を書くこと。二人のやりとりを読んで気づくのは、相手を思いやるということは、自分を差し出すということ。出来事について自分がどう思うかを考えあぐねながらでも誠実に言葉にしていくことが、相手の心を温める。「自分の書く言葉は、届けと思って届くより、自分から遠く離れたところで、偶然のように届いてほしい」(滝口)。構えなくていい。自分の言葉を自分の中から探し出す、その時間が、言葉を豊かにしてくれる。