#12
レスレストン フォー
ベーシックが好きだけど退屈なのはイヤ♡
そんな服好き視点を大切に日々いいモノの発掘に勤しむ
Beginプロデューサー ミツキが、
シップスのフレンドたちと対談。
長年の関係性をベースに、これぞ!な オスミツキの
アイテムを探す連載の第12回です。
今回のお相手はシップス ドレス企画の矢吹。
お題は『シャツ』でいってみよ〜!!
Begin
プロデューサーミツキ
1977年生まれ。(株)ワールドフォトプレス『モノ・マガジン』編集部を経て、(株)世界文化社『Begin』編集部へ。2017 年に10 代目編集長に就任する。'21 年10 月より現職。“いくつになっても中坊マインド” を胸に、心躍るコラボアイテムや新雑誌の開発に勤しむ。
シップス
シップス
ドレス企画矢吹宗士
1979 年、千葉生まれ。モノ作りへの興味から大学卒業後に服飾専門学校へ進み、銀座にテーラーを構えるブランドにて企画や生産に携わる。シップスへは2016 年に入社。こだわりのすべてを叶えるべく、オリジナルスーツのパターンを自ら引くなど、異能を発揮している。
ミツキ:矢吹さん、ずっとドレス畑なんですね。どうりでシップスさんっぽくないと思った。
矢吹:あぁー、そこは自分の課題です(笑)。
ミツキ:いやいやそういう方がいないとね。今日はドレスシャツですか。オスミツキ企画でガチガチのドレスアイテムを扱うのは初めてじゃないですか? いつも対談の前にお題を教えてくれないから、スウェットで来ちゃいましたよ。珍しく。
矢吹:そうですね、いつもは……。
ミツキ:いえゴメンナサイ、ほぼ毎日スウェットです(笑) 。私の正装♡ さておき、今ってテレワークだなんだで必ずしもスーツを着なくていい時代じゃないですか。そんな中で、ドレスシャツもどんどん消耗品になっている気がしていまして。
矢吹:そうですね。
ミツキ:自分は今45 歳ですけど、我々の時代はバルバだとかのいいシャツを買うことが憧れであり、正解だったでしょう? だからボクも、昔はちゃんとお金を出して買っていたんですよ。 英国のターンブル&アッサーでも3着作りましたし。
矢吹:えっ、オーダーされたんですか?
ミツキ:はい。でも若い頃に体型ピッタリに作ったもんで、太った今は全部着られないというオチで(笑) 。
矢吹:うわー、それは残念。
ミツキ:そんなこともあって、ボクの中でもどんどんシャツの消耗品化が進んでいて。そんな中で、矢吹さんがどんなシャツを作られたのか興味があります。
矢吹:ミツキさんのおっしゃるとおりで、今はよっぽど好きな人でないとわざわざお金を出していいシャツを買われる方は多くないのだなと実感しています。ただ、やっぱりこだわりたいというお客様も一定数いらっしゃる。今回の企画は、そういう方が満足できる上質かつ“素直な値段” のオリジナルシャツを作ろうというところから始まりました。
ミツキ: “素直な値段” って表現、なんかイイですね。おいくらなんですか?
矢吹:税込みで2 万7940 円です。
ミツキ:インポートよりは手頃だけど、オリジナルシャツとしては高めの値段設定と。
矢吹:はい。インポートにも負けないものが作りたかったので、ビスポークのドレスシャツで名高い大阪は中之島の『レスレストン』さんに縫製をお願いして、持っているこだわりのすべてを注ぎました。ダブルネームでオリジナルのドレスシャツを作るというのも、初めての経験ですね。
ミツキ:オリジナルシャツの最高峰を作った、と。そう考えると高くない。
矢吹: はい。実際に手に取って見ていただき、 袖を通していただけたらむしろリーズナブルに感じていただけると信じています。
ミツキ:こだわりをうかがっていきましょう。
矢吹:1つ目はやっぱりステッチワーク※Aですね。日本のいろいろな工場を探しましたが、ここまで綺麗にステッチを打てるところはレスレストンさんをおいて他にありません。
A:端正なステッチが職人技術を雄弁に語る。ちなみにミシン糸は、ガス焼きして毛羽を除いたものを使用。
ミツキ:ミシンなのに、なんだかハンドっぽい雰囲気も感じますね。綺麗なんだけど無機質じゃなく、温かみを感じるんですよ。立体的だからかな。
矢吹:ありがとうございます。レスレストンさんはそもそもビスポークシャツで名高いメーカーなので既成品の生産をお願いできるかダメ元だったのですが、ちょうど先方も既成の生産をしたいと思っていたタイミングだったようでして。ご縁があってよかったです。
ミツキ:衿の表情も凄くキレイ※B。
B:自然なロールを描く衿。見え方において最も重要な箇所だ。
矢吹:ココもこだわっていまして。既成シャツではあまり られないのですが、地衿に剥ぎを入れている※Cんです。これにより左右の地の目が揃い、対象になる。そのうえで表衿と地衿に差寸を設け、引っ張りながら縫うことで、地衿側へ自然にロールさせている。さすがはレスレストンさんの仕事です。
C:地衿の生地と芯を正バイアス45°に取り、剥ぎを境に左右対称に並べる。
ミツキ:ふーん、なるほどね。運針もめちゃめちゃ細かい。
矢吹: インチに30針以上入っています。ドレスシャツでいうと、23針から多くても28針が一般的なので、かなり細かいです。細かくすること自体はミシンのダイヤル操作で出来ても、細かい運針でここまで正確無比に縫えるというのは、やっぱり凄まじいですよ。
ミツキ:ほんとに。
矢吹:余談ですが、このシャツの縫製は工場式の流れ作業ではなく、1枚のシャツを3名の職人さんで縫っています。技術が素晴らしいのはもちろん、目指すべきゴールを皆が共有しているから、一貫して高クオリティを保てるんだろうと思います。
ミツキ: ほかにも色々こだわっているんですよね?
矢吹: はい。台衿も内回りと外回りに差寸を設けて、引っぱりながら縫っています。これにより、首へ立体的に沿うよう台衿がカーブしてくれる。
ミツキ: 見え方にしてもフィット感にしても、首周りのアールは一番大切ですもんね。
矢吹: おっしゃる通りです。それから“コバ” へのこだわりも凄いんですよ。一般的にコバステッチというと、端から1.8mm〜2mm くらいのところに入るものが多いのですが、レスレストンさんは本当に1.0mmとかそのくらいのキワのキワに入れる※Dことができる。多くの既成シャツのようにアタッチメントを付けてダーッと縫うのでは、こうはいきません。地縫いなどの下処理を丁寧にしているからこその、スーパークオリティです。
D:キワのキワでも一糸乱れぬサマは芸術的!
ミツキ: ホントだ、衿のコバステッチもキワッキワに入ってる。細かいところにまでこだわってらっしゃるんですね。矢吹さんもマニアだわー(笑)。
矢吹: いやースーツも大好きだけど、ホントに好きなんです、シャツ。
矢吹:袖下の縫い目も、引き縫いをする=引っ張りながら縫うことで、袖が少し前にねじれるようなカタチを描くように工夫しています。これもテーラードスーツに倣った手法ですね。
ミツキ: へぇー、凄い。ここも立体的なんだ。
矢吹:なのでアイロン掛けはちょっと大変かもしれません(笑)。
ミツキ:ヒダが寄らないように掛けないと。
矢吹:それからシャツ好きの方ならチェックされると思うのですが、剣ボロの裏の処理にもこだわって※Eいまして。 当たりを極力抑えるよう、手の掛かる三つ巻きで薄く、フラットに仕上げている。普通にパイピング処理をすると厚みとカドが出てしまい、当たりが強いんです。
E:極力当たりを抑えるために、手間の掛かる三つ巻きで処理。
ミツキ:そんなところまで!シャツは消耗品だなんて思っていた自分を戒めたいなー(笑)。
矢吹:続けざまに恐縮ですが、袖の三つ巻きも ていただきたい※Fですね。ここも通常はミシンにアタッチメントを付けてダーッと縫ってしまうのですが、するとどうしても縫い代にねじれが生じてしまうんです。でもこのシャツの裾裏は、ご覧のとおり。
F:カーブした裾裏も襞1つ見えない超絶技巧!
ミツキ: え!? ここって普通に縫ったら、財布の角の菊寄せみたいに襞ができて当然ですよね。カーブしてるんだから。襞ひとつないのが不思議。
矢吹:レスレストンさんはカーブする裾の生地に余りがでないよう、クセ取りをしながら縫っています。奇跡的な技術力の高さを感じます。
ミツキ:ボタン周りもさすがの美しさで。
矢吹:はい。ボタンはオリジナルで、裏にお椀のような丸みをつけて※G、着脱をしやすくしています。 鳥付けにする※Hことでボタンに若干の傾きをもたせているのも、同じ目的からです。根巻きもしっかりしています。
G:この湾曲がボタン滑りをよくする。
H:鳥の足のように見えるので鳥足付け。糸が集中する下部へ、自然にボタンが傾く。
ミツキ:鳥足ってそんなメリットがあったんだ……。知りませんでした。
矢吹:毎日知らず知らずに手が伸びてしまうシャツって、往々にして着やすさにつながる作りがしっかりしているもの。なので、細かい箇所といえどもとても大切なんです。
ミツキ:もう会心の出来なのでは?
矢吹:ええ、抜群にイイものが出来たと自負しています。
ミツキ: さっき首周りの立体感のお話が出ましたが、ほかにも着心地をよくするためにこだわっている箇所はあるんですか?
矢吹:肩線を前見頃に向けてインカーブさせ、スーツでいう“前肩” のように肩の前方へ膨らみを作っています。引っ張りながら縫わないといけなかったりと、大変なんですが。
ミツキ:なんだかライダースみたい。
矢吹:そうなんです。
ミツキ:ちなみに今日着られているシャツも、今回のシャツと同じシリーズのものなんですか?
矢吹:はい。自画自賛で恐縮ですが、着たときに後ろに引っ張られる感じがなく、非常に着心地がいいです。
ミツキ:モノ作りの考え方がビスポーク的ですよね。
矢吹:おっしゃるとおり。ビスポークの手法を既成に落とし込みました。
ミツキ:そう考えると、税込み2 万7940 円はメチャ安いですね。まさに“素直な値段”。
矢吹:この値段で出せたことが、ホントに幸せだなと思います。僕も自分で企画しておきながら全部買っちゃいました。
ミツキ:ビスポークしないでいいからおトク♡ って職権乱用じゃないですか(笑)。消耗品へのアンチテーゼじゃないけど、こういう時代だからこそ生まれた逸品という気がします。矢吹さんの熱い想いはきちんとお店のスタッフにも伝えて、お客さんに伝えてもらわないとですね。
矢吹:恐縮です。
ミツキ:価格も着用感も、 肩肘張らないのがイイ。白、青のストライプ、クレリックという基本の3つが揃っているし、3枚持っておけばとりあえずどこへ行くにも困らない。いやー、久々にドレスシャツを欲しくなりましたよ。その前に自分の体型を何とかしないとだけど(笑)。
矢吹:ありがとうございます!
ミツキ: 余談ですが、ボクらの世代ってシャツの下にアンダーシャツを着ないじゃないですか。シャツは下着っていう概念があるので。
矢吹:はい。着ないものだと教わりました。
ミツキ:でも若い子たちは気にせず着るんですよ。素肌にシャツを着るのが気持ち悪いんですって。
矢吹:たしかに、若い方はそうかもしれません。我々も厳しい先輩方からそういうものだと教わったので素直に実践してました。でも、素肌に着ることで素材のよさや仕立てのよさを感じることができるので、このシャツはぜひ素肌に着てほしい(笑)。
ミツキ:どんな生地を使っているんですか?
矢吹:国産のオリジナルで、クレリックシャツの生地は経緯120 番双糸のピケ※Iです。糸をガス焼きしているので、シルクのような光沢があります。
I:ニュアンス豊かなピケ組織ながら、繊細で品 のいい印象。
ミツキ: 糸の段階でシルケット加工しているんだ。色も素敵で。
矢吹:ありがとうございます。今季イチ押しの、やや緑掛かったサックスです。ピケ組織に表情があるので、僕が着るならタイもニュアンスのある組織の一本を合わせたい※Jですね。
J:ネイビースーツと合わせて。タブカラーなので、 タイのノットは小さめが吉。
ミツキ:こっちの白シャツの生地は?
矢吹:こちらはオックスフォード組織なんですが、経糸を140 双糸、緯糸を120 双糸と、あえての異番手使いをしているのが特徴です。
ミツキ:凹凸をつけようという狙いですか?
矢吹:おっしゃるとおり。異番手だと独特の表情が出てくる※Kんですよね。柔らかく仕上がるのも特徴で。
K:ただし経緯ともに細番手の糸のため、印象はどこかドレッシー。
ミツキ:たしかにテクスチャー感がありますよね。オックスなのに品があるってイイですよね。それにしても、オックスに140 番双糸を使うなんてアホ……褒め言葉ですよ! こういうの大好きです。
矢吹:ありがとうございます(笑)。ちなみにこの白シャツは“白さ” にもこだわりました。
ミツキ:歯と白シャツは白いほどイイですもんね。あとは心か。
矢吹:ホントに。反省しないといけない(笑)。
ミツキ:ふふふ。でもたしかにこのシャツはちゃんと白いですね。
矢吹:聞いた話なのですが、仕上げの洗い工程に使う水の水質によって白さが青み掛かったり、いろいろ変わるらしいんです。この生地の仕上げには滋賀県の綺麗な水を使っていて、すると極めて純白に近い白になると。
ミツキ:えーっ、初めて聞きました。ミネラルが関係するのかな。六甲のおいしい水とか南アルプスの天然水で洗い仕上げしたらどんな色になるんだろう?
矢吹:あはは。どうなるんでしょうね。
ミツキ:こっちのストライプシャツの生地は?
矢吹:100 番双糸のブロードです。
ミツキ:ちょっぴりくだけた感じもあって、これも好きだなー。
矢吹:ベーシックなロンドンストライプ柄※Lですし、いろいろなスーツに合わせやすい風合いを意識して、これを使いました。
L:“ロンスト” の略で親しまれるロンドンストライプは、柄モノながら合わせやすい。
ミツキ:紺ブレとかにも似合いそう。それこそシップスでやっているサウスウィックとかね。
矢吹:間違いないと思います。
ミツキ:あらっ、もうこんな時 ですか。いやー、今日は熱いお話が聞けてよかったです。次の現場があるのでスミマセン、ボクはこの辺りで失礼いたします。でも最後に、恒例のアダ名ですよね。
矢吹:いただけるんですか?
ミツキ:はい、恒例なので。名字は矢吹さんだから……ジョーで!
矢吹: だなー( 笑)。小学生のとき呼ばれていましたけど。
ミツキ:でもBegin 編集部の関口のアダ名も、宏ですから。あとメンディー。
ミツキ:矢吹さん、ずっとドレス畑なんですね。どうりでシップスさんっぽくないと思った。
矢吹:あぁー、そこは自分の課題です(笑)。
ミツキ:いやいやそういう方がいないとね。今日はドレスシャツですか。オスミツキ企画でガチガチのドレスアイテムを扱うのは初めてじゃないですか? いつも対談の前にお題を教えてくれないから、スウェットで来ちゃいましたよ。珍しく。
矢吹:そうですね、いつもは……。
ミツキ:いえゴメンナサイ、ほぼ毎日スウェットです(笑) 。私の正装♡ さておき、今ってテレワークだなんだで必ずしもスーツを着なくていい時代じゃないですか。そんな中で、ドレスシャツもどんどん消耗品になっている気がしていまして。
矢吹:そうですね。
ミツキ:自分は今45 歳ですけど、我々の時代はバルバだとかのいいシャツを買うことが憧れであり、正解だったでしょう? だからボクも、昔はちゃんとお金を出して買っていたんですよ。 英国のターンブル&アッサーでも3着作りましたし。
矢吹:えっ、オーダーされたんですか?
ミツキ:はい。でも若い頃に体型ピッタリに作ったもんで、太った今は全部着られないというオチで(笑) 。
矢吹:うわー、それは残念。
ミツキ:そんなこともあって、ボクの中でもどんどんシャツの消耗品化が進んでいて。そんな中で、矢吹さんがどんなシャツを作られたのか興味があります。
矢吹:ミツキさんのおっしゃるとおりで、今はよっぽど好きな人でないとわざわざお金を出していいシャツを買われる方は多くないのだなと実感しています。ただ、やっぱりこだわりたいというお客様も一定数いらっしゃる。今回の企画は、そういう方が満足できる上質かつ“素直な値段” のオリジナルシャツを作ろうというところから始まりました。
ミツキ: “素直な値段” って表現、なんかイイですね。おいくらなんですか?
矢吹:税込みで2 万7940 円です。
ミツキ:インポートよりは手頃だけど、オリジナルシャツとしては高めの値段設定と。
矢吹:はい。インポートにも負けないものが作りたかったので、ビスポークのドレスシャツで名高い大阪は中之島の『レスレストン』さんに縫製をお願いして、持っているこだわりのすべてを注ぎました。ダブルネームでオリジナルのドレスシャツを作るというのも、初めての経験ですね。
ミツキ:オリジナルシャツの最高峰を作った、と。そう考えると高くない。
矢吹: はい。実際に手に取って見ていただき、 袖を通していただけたらむしろリーズナブルに感じていただけると信じています。
ミツキ:こだわりをうかがっていきましょう。
矢吹:1つ目はやっぱりステッチワーク※Aですね。日本のいろいろな工場を探しましたが、ここまで綺麗にステッチを打てるところはレスレストンさんをおいて他にありません。
A:端正なステッチが職人技術を雄弁に語る。ちなみにミシン糸は、ガス焼きして毛羽を除いたものを使用。
ミツキ:ミシンなのに、なんだかハンドっぽい雰囲気も感じますね。綺麗なんだけど無機質じゃなく、温かみを感じるんですよ。立体的だからかな。
矢吹:ありがとうございます。レスレストンさんはそもそもビスポークシャツで名高いメーカーなので既成品の生産をお願いできるかダメ元だったのですが、ちょうど先方も既成の生産をしたいと思っていたタイミングだったようでして。ご縁があってよかったです。
ミツキ:衿の表情も凄くキレイ※B。
B:自然なロールを描く衿。見え方において最も重要な箇所だ。
矢吹:ココもこだわっていまして。既成シャツではあまり られないのですが、地衿に剥ぎを入れている※Cんです。これにより左右の地の目が揃い、対象になる。そのうえで表衿と地衿に差寸を設け、引っ張りながら縫うことで、地衿側へ自然にロールさせている。さすがはレスレストンさんの仕事です。
C:地衿の生地と芯を正バイアス45°に取り、剥ぎを境に左右対称に並べる。
ミツキ:ふーん、なるほどね。運針もめちゃめちゃ細かい。
矢吹: インチに30針以上入っています。ドレスシャツでいうと、23針から多くても28針が一般的なので、かなり細かいです。細かくすること自体はミシンのダイヤル操作で出来ても、細かい運針でここまで正確無比に縫えるというのは、やっぱり凄まじいですよ。
ミツキ:ほんとに。
矢吹:余談ですが、このシャツの縫製は工場式の流れ作業ではなく、1枚のシャツを3名の職人さんで縫っています。技術が素晴らしいのはもちろん、目指すべきゴールを皆が共有しているから、一貫して高クオリティを保てるんだろうと思います。
ミツキ: ほかにも色々こだわっているんですよね?
矢吹: はい。台衿も内回りと外回りに差寸を設けて、引っぱりながら縫っています。これにより、首へ立体的に沿うよう台衿がカーブしてくれる。
ミツキ: 見え方にしてもフィット感にしても、首周りのアールは一番大切ですもんね。
矢吹: おっしゃる通りです。それから“コバ” へのこだわりも凄いんですよ。一般的にコバステッチというと、端から1.8mm〜2mm くらいのところに入るものが多いのですが、レスレストンさんは本当に1.0mmとかそのくらいのキワのキワに入れる※Dことができる。多くの既成シャツのようにアタッチメントを付けてダーッと縫うのでは、こうはいきません。地縫いなどの下処理を丁寧にしているからこその、スーパークオリティです。
D:キワのキワでも一糸乱れぬサマは芸術的!
ミツキ: ホントだ、衿のコバステッチもキワッキワに入ってる。細かいところにまでこだわってらっしゃるんですね。矢吹さんもマニアだわー(笑)。
矢吹: いやースーツも大好きだけど、ホントに好きなんです、シャツ。
矢吹:袖下の縫い目も、引き縫いをする=引っ張りながら縫うことで、袖が少し前にねじれるようなカタチを描くように工夫しています。これもテーラードスーツに倣った手法ですね。
ミツキ: へぇー、凄い。ここも立体的なんだ。
矢吹:なのでアイロン掛けはちょっと大変かもしれません(笑)。
ミツキ:ヒダが寄らないように掛けないと。
矢吹:それからシャツ好きの方ならチェックされると思うのですが、剣ボロの裏の処理にもこだわって※Eいまして。 当たりを極力抑えるよう、手の掛かる三つ巻きで薄く、フラットに仕上げている。普通にパイピング処理をすると厚みとカドが出てしまい、当たりが強いんです。
E:極力当たりを抑えるために、手間の掛かる三つ巻きで処理。
ミツキ:そんなところまで!シャツは消耗品だなんて思っていた自分を戒めたいなー(笑)。
矢吹:続けざまに恐縮ですが、袖の三つ巻きも ていただきたい※Fですね。ここも通常はミシンにアタッチメントを付けてダーッと縫ってしまうのですが、するとどうしても縫い代にねじれが生じてしまうんです。でもこのシャツの裾裏は、ご覧のとおり。
F:カーブした裾裏も襞1つ見えない超絶技巧!
ミツキ: え!? ここって普通に縫ったら、財布の角の菊寄せみたいに襞ができて当然ですよね。カーブしてるんだから。襞ひとつないのが不思議。
矢吹:レスレストンさんはカーブする裾の生地に余りがでないよう、クセ取りをしながら縫っています。奇跡的な技術力の高さを感じます。
ミツキ:ボタン周りもさすがの美しさで。
矢吹:はい。ボタンはオリジナルで、裏にお椀のような丸みをつけて※G、着脱をしやすくしています。 鳥付けにする※Hことでボタンに若干の傾きをもたせているのも、同じ目的からです。根巻きもしっかりしています。
G:この湾曲がボタン滑りをよくする。
H:鳥の足のように見えるので鳥足付け。糸が集中する下部へ、自然にボタンが傾く。
ミツキ:鳥足ってそんなメリットがあったんだ……。知りませんでした。
矢吹:毎日知らず知らずに手が伸びてしまうシャツって、往々にして着やすさにつながる作りがしっかりしているもの。なので、細かい箇所といえどもとても大切なんです。
ミツキ:もう会心の出来なのでは?
矢吹:ええ、抜群にイイものが出来たと自負しています。
ミツキ: さっき首周りの立体感のお話が出ましたが、ほかにも着心地をよくするためにこだわっている箇所はあるんですか?
矢吹:肩線を前見頃に向けてインカーブさせ、スーツでいう“前肩” のように肩の前方へ膨らみを作っています。引っ張りながら縫わないといけなかったりと、大変なんですが。
ミツキ:なんだかライダースみたい。
矢吹:そうなんです。
ミツキ:ちなみに今日着られているシャツも、今回のシャツと同じシリーズのものなんですか?
矢吹:はい。自画自賛で恐縮ですが、着たときに後ろに引っ張られる感じがなく、非常に着心地がいいです。
ミツキ:モノ作りの考え方がビスポーク的ですよね。
矢吹:おっしゃるとおり。ビスポークの手法を既成に落とし込みました。
ミツキ:そう考えると、税込み2 万7940 円はメチャ安いですね。まさに“素直な値段”。
矢吹:この値段で出せたことが、ホントに幸せだなと思います。僕も自分で企画しておきながら全部買っちゃいました。
ミツキ:ビスポークしないでいいからおトク♡ って職権乱用じゃないですか(笑)。消耗品へのアンチテーゼじゃないけど、こういう時代だからこそ生まれた逸品という気がします。矢吹さんの熱い想いはきちんとお店のスタッフにも伝えて、お客さんに伝えてもらわないとですね。
矢吹:恐縮です。
ミツキ:価格も着用感も、 肩肘張らないのがイイ。白、青のストライプ、クレリックという基本の3つが揃っているし、3枚持っておけばとりあえずどこへ行くにも困らない。いやー、久々にドレスシャツを欲しくなりましたよ。その前に自分の体型を何とかしないとだけど(笑)。
矢吹:ありがとうございます!
ミツキ: 余談ですが、ボクらの世代ってシャツの下にアンダーシャツを着ないじゃないですか。シャツは下着っていう概念があるので。
矢吹:はい。着ないものだと教わりました。
ミツキ:でも若い子たちは気にせず着るんですよ。素肌にシャツを着るのが気持ち悪いんですって。
矢吹:たしかに、若い方はそうかもしれません。我々も厳しい先輩方からそういうものだと教わったので素直に実践してました。でも、素肌に着ることで素材のよさや仕立てのよさを感じることができるので、このシャツはぜひ素肌に着てほしい(笑)。
ミツキ:どんな生地を使っているんですか?
矢吹:国産のオリジナルで、クレリックシャツの生地は経緯120 番双糸のピケ※Iです。糸をガス焼きしているので、シルクのような光沢があります。
I:ニュアンス豊かなピケ組織ながら、繊細で品 のいい印象。
ミツキ: 糸の段階でシルケット加工しているんだ。色も素敵で。
矢吹:ありがとうございます。今季イチ押しの、やや緑掛かったサックスです。ピケ組織に表情があるので、僕が着るならタイもニュアンスのある組織の一本を合わせたい※Jですね。
J:ネイビースーツと合わせて。タブカラーなので、 タイのノットは小さめが吉。
ミツキ:こっちの白シャツの生地は?
矢吹:こちらはオックスフォード組織なんですが、経糸を140 双糸、緯糸を120 双糸と、あえての異番手使いをしているのが特徴です。
ミツキ:凹凸をつけようという狙いですか?
矢吹:おっしゃるとおり。異番手だと独特の表情が出てくる※Kんですよね。柔らかく仕上がるのも特徴で。
K:ただし経緯ともに細番手の糸のため、印象はどこかドレッシー。
ミツキ:たしかにテクスチャー感がありますよね。オックスなのに品があるってイイですよね。それにしても、オックスに140 番双糸を使うなんてアホ……褒め言葉ですよ! こういうの大好きです。
矢吹:ありがとうございます(笑)。ちなみにこの白シャツは“白さ” にもこだわりました。
ミツキ:歯と白シャツは白いほどイイですもんね。あとは心か。
矢吹:ホントに。反省しないといけない(笑)。
ミツキ:ふふふ。でもたしかにこのシャツはちゃんと白いですね。
矢吹:聞いた話なのですが、仕上げの洗い工程に使う水の水質によって白さが青み掛かったり、いろいろ変わるらしいんです。この生地の仕上げには滋賀県の綺麗な水を使っていて、すると極めて純白に近い白になると。
ミツキ:えーっ、初めて聞きました。ミネラルが関係するのかな。六甲のおいしい水とか南アルプスの天然水で洗い仕上げしたらどんな色になるんだろう?
矢吹:あはは。どうなるんでしょうね。
ミツキ:こっちのストライプシャツの生地は?
矢吹:100 番双糸のブロードです。
ミツキ:ちょっぴりくだけた感じもあって、これも好きだなー。
矢吹:ベーシックなロンドンストライプ柄※Lですし、いろいろなスーツに合わせやすい風合いを意識して、これを使いました。
L:“ロンスト” の略で親しまれるロンドンストライプは、柄モノながら合わせやすい。
ミツキ:紺ブレとかにも似合いそう。それこそシップスでやっているサウスウィックとかね。
矢吹:間違いないと思います。
ミツキ:あらっ、もうこんな時 ですか。いやー、今日は熱いお話が聞けてよかったです。次の現場があるのでスミマセン、ボクはこの辺りで失礼いたします。でも最後に、恒例のアダ名ですよね。
矢吹:いただけるんですか?
ミツキ:はい、恒例なので。名字は矢吹さんだから……ジョーで!
矢吹: だなー( 笑)。小学生のとき呼ばれていましたけど。
ミツキ:でもBegin 編集部の関口のアダ名も、宏ですから。あとメンディー。
〜ミツキのオスミツキ〜