Living Room

ベッドルームやダイニングルームのように、具体的な何かをするための部屋ではないけれど、だからこそ家の中で一番リラックスできる場所ともいえるリビングルーム。

ソファに寝転がって本を読んでもいいし、お気に入りのレコードをかけてまったり過ごすのもいい。“Living”の部屋という曖昧な名の空間の使い方は住人に委ねられるもの。

時間は有限だけれど、そのなかでどう過ごすかは自由だ。リビングルームはそんなことを問いかけてくる。

Key Items for Living Room

  • ぬくぬくリセット法

    ぬくぬくリセット法

    から何もかもうまくいかない日、というのがある。冬だったら、たぶんこんな感じだ。寒くて布団から出られずにうっかり二度寝、焦ってタイツを履けばささくれ立った爪にひっかかり伝線するわ、秒速でクローゼットから選んだ服はとんちんかんな組み合わせ。外出しても惨事はつづく。見上げた空は白茶けた寒空で、駅では目の前で電車を一本逃し、会議ではズレた発言をして、打ち合わせの場所を間違える……。まるで悪夢かコメディ映画みたいにつづく不の連鎖に、どうしてここまでついてない? と泣きたくなる日が、一年に一度くらいはある。

  • 夜のお茶会

    夜のお茶会

    国にある友人の家に1週間ほどお世話になった、ある冬のこと。この家は友人夫妻と、上は高校生から下は小学生までの子供が3人、そしてお母様、お父様の7人家族。その家では、毎晩9時頃に家族全員がリビングに自然と集まり、ささやかなお茶の時間が始まる。夜なのでコーヒーのかわりに、ある日はハーブティ、またある日はミルクティに簡単なクッキーなどをつまみながら。夕飯の後片付けが終わった友人も、外食のため夕食にいなかった者も、勉強が一段落した子供たちも、このときばかりは全員で集まりお茶を飲む。話題は、学校や職場で起きたことやペットのジャーマン・シェパードのこと、庭の植物の元気がないとか、調子の悪い冷蔵庫を新調したい、などなどたわいもない話だ。

  • 新しいマイルール

    新しいマイルール

    が止まってしまったら、手を洗うことにしています。それも、石けんをたっぷり泡立てて、ブラシを使って爪の中まで入念に。水で浄めると、頭の中の余計なものが落ちて、書くべきことが見えてきます」  敬愛する作家のインタビューを読んでいたら、こんな一文があった。なるほど、と思って、このワザを真似させてもらっているのだが、アイディアがまとまらないときや心配事で心が晴れないときなどにも落ち着きを取り戻せる。

select:YUKA KIMBARA

寒い日に観たい
心あたたまる映画

クリスマス・ストーリー

MOVIE_01クリスマス・ストーリー(2008)

A・デプレシャンは生まれ育ったフランス北部、ルーベを舞台に優れた人間ドラマを描く人で、本作の舞台もこちら。K・ドヌーヴ演じる母の白血病を受け、仲の悪い家族が数年ぶりにクリスマス休暇で実家に集結。破天荒な弟(M・アマルリック)と彼の借金を肩代わりした姉(A・コンシニ)の関係は最悪で何かとぶつかるが、全ての諍いを包み込むのが高い天井に年季の入った花柄の壁紙、大理石の暖炉があるリビングルーム。積年の恨みつらみも聖夜の準備が軽くする。互いに「嫌い」と言い合うドヌーブとアマルリック母子の言葉とは裏腹の表情が最高。
監督:アルノー・ディプレシャン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、マチュー・アマルリック、アンヌ・コンシニ、メルヴィル・プポーほか
DVD発売中
発売元:ミッドシップ
グッド・ストライプス

MOVIE_02グッド・ストライプス(2015)

惰性での交際が続く4年目カップルが、予期せぬ妊娠で互いの関係性を見詰め直し、結婚を決意。ところが、初の同居で互いの趣味嗜好が衝突、片付け中に相手の持ち物をけなし、険悪になるなど、「結婚あるある」ネタが満載のラブコメディ。私とあなただけの世界が、結婚を機に実家や親との関係性にまで広がり、その都度、知らないリビングを訪ねていくことに。脚本も手掛けた岨手由貴子監督によるとタイトルには「素晴らしき平行線」との意味があるそう。冬の出産に向け、徐々に心地よいリビングへと変貌していく、部屋の空気感を味わいたい。
脚本・監督:岨手由貴子
出演:菊池亜希子、中島歩、臼田あさ美ほか
DVD発売中  
販売元:バンダイナムコアーツ
(c)2015「グッド・ストライプス」製作委員会
アスファルト

MOVIE_03アスファルト(2015)

フランスのとある団地を舞台とした人間ドラマ。荒涼とした土地にポツンと取り残されたようにそびえたつ団地で、建物内は落書きだらけ。住民同士の交流も少なく、それぞれ寂しさを抱えて暮らすなか、ある日突然、NASAの宇宙飛行士が団地の屋上に不時着し、予期せぬ出会いが積み重なっていく。映画では各住民の部屋が写されるが、最も癒しの空間は、宇宙飛行士を匿うアルジェリア系の老女の部屋。素朴で可愛らしい花柄のテーブルクロスに、タジン鍋で作った煮込み料理やクスクスが並び、言葉の通じない宇宙飛行士と食を通して異文化交流をする。
監督:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキほか
© 2015 La Camera Deluxe - Maje Productions - Single Man Productions - Jack Stern Productions - Emotions Films UK - Movie Pictures - Film Factory
風の波紋

MOVIE_04風の波紋(2015)

日本有数の豪雪地帯で、近年、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』開催地としても注目される越後妻有地域の里山に暮らす人々の日常を追ったドキュメンタリー。東京から移住して、自ら手直ししていた小暮さんの古民家が地震で大きな被害を受ける。壊すしかないと覚悟するなか、近隣の職人や村の人の知識と技で、傾いた家と柱が見事に再生されていく過程をじっくりと追ったもの。古民家は住む人のかけた手間と手入れで生き返りもすれば、老いて維持できなくて手放す人の姿も出てくる。暖炉を囲んで友人たちが床の隙間なく置く料理とその湯気、地酒の数の豊かさに、日本独自のリビングの在り方を考えさせられる。
監督:小林茂
(c)カサマフィルム
http://kazenohamon.com
しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス

MOVIE_05しあわせの絵の具 愛を描く人
モード・ルイス(2016) 

カナダでは知らぬ人がいないという素朴派の画家、モード・ルイス(1903-1970)の半生を追った映画。若くして関節リウマチを患った彼女は、30代で両親を亡くし、自立を決意して魚売りのエヴァレットの女中に応募する。そこは町から離れた海辺の4メートル四方の小屋で、電気、ガス、水道もない。手足が不自由ながら彼女は肉体労働で疲れた彼のためにスープを作り、殺風景な部屋の窓や壁に可愛らしい絵を描いていく。当初は威圧的だった彼も絵の温もりで優しさをまとい、強く結ばれる夫婦に。晩年、彼らの家は観光名所となり今はノバスコシア美術館に展示されている。
監督:アシュリング・ウォルシュ
出演:サリー・ホーキンス、イーサン・ホークほか
10月3日(水)DVDリリース(税別価格¥3,800)
発売・販売元:松竹 
©2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

PROFILE

金原由佳
映画ジャーナリスト。同世代の日本映画の監督を中心に、映画の新しい動きを追いかける日々。著書に映画評論集『ブロークン・ガール 美しくこわす少女たち』(フィルムアート社)など。