スウェーデンをはじめ欧州で大ヒット! 映画『100歳の華麗なる冒険』の監督インタビュー スウェーデンをはじめ欧州で大ヒット! 映画『100歳の華麗なる冒険』の監督インタビュー

スウェーデンをはじめ欧州で大ヒット! 映画『100歳の華麗なる冒険』の監督インタビュー

スウェーデンをはじめ欧州で大ヒット!映画『100歳の華麗なる冒険』の監督インタビュー

スウェーデンをはじめ欧州で大ヒット!
映画『100歳の華麗なる冒険』の監督インタビュー

SHIPS'S EYE

100歳の誕生パーティを目前に老人ホームを抜け出し、あてどない旅に出たひとりの老人。その道中、彼はひょんなことから闇資金が詰まったギャングのスーツケースを入手する。必死に追いかけるギャングや警察を尻目に、マイペースで傍若無人な旅は続くのだが、彼の過去はそれ以上に破天荒だった。子どもの頃から爆破が大好きだった彼は、ロシア革命から第二次世界大戦、東西冷戦まで、常に歴史の脇役として世界の要人と関わり、飄々とした態度で笑えるほど不思議な人生を送っていたのだ。そんな彼の過去と現在がオーバーラップする物語。
小説『窓から逃げた100歳老人(The Hundred-Year-Old Man Who Climbed Out of the Window and Disappeared)』は、人口約900万人のスウェーデンで100万部を売り上げ、世界40カ国で累計800万部の大ベストセラーに。その後、スウェーデンでは知らぬ者はいない監督・脚本家・プロデューサー・俳優とマルチに活動するフェリックス・ハーングレンによって映画化された。今回は、日本での公開に合わせて来日した監督に、作品が生まれるまでのお話を伺った。

ーースウェーデンで空前の大ヒットとなった小説の映画化ということですが、監督のオファーがあった際にはすでに本は読んでいらしたのですか?

フェリックス・ハーングレン監督(以下、フェリックス) 最初は、この映画のプロデューサーとして名を連ねているヘンリックという友人から、「すごくいい本があるからキミが監督、僕がプロデューサーでやらないか?」 と電話がかかってきたんです。内容を訊ねたら「100歳の老人が冒険に出て行く話」って言われて、その時点では設定として難しそうだし、そんな老人の役者がいるのかって乗り気じゃない返事をしたんですよね。その後に本も届いたのですが、忙しくて読む暇もなくて。しつこく催促があったから読んでみたら、いきなり1ページ目から面白かった(笑)。50ページ程度読んだところでヘンリックに電話して「是非、やろう!」と伝えました。

ーー読み終わってすぐの感想はどんなものでしたか?

フェリックス 映画の話があったうえで読んだこともあるけど、僕の表現に合ったユーモアだなと思いましたね。不条理ではあるんだけど、真っ当な箇所でしか誇張がされてないし、すごくバランスが取れている。また、人生をどう過ごすのか、どのように歳を重ねるべきかを考えさせられたりと深さもある、すごく魅力的な小説だなって。ただ、この本の映画化を狙っていたライバルは40社もあって。最終段階でデンマークのスサンネ・ビア監督との争いになったんですけど、僕らが権利を獲得した2ヵ月後に、彼女はアカデミー賞の外国語映画賞を受賞したんです。ホント、その後じゃなくて良かった(笑)。

ーー原作者のヨナス・ヨナソンさんは、もともとスウェーデンでテレビの制作会社をやられていたようですが、その時期に関わりなどはあったのですか?

フェリックス 彼の会社はスポーツ中継とか生中継などが多かったみたいだから、これまでに会ったことはなかったですね。映画権の取得で争っているときに何度か電話で話して、決まってから数週間後に初めて会いました。でも、そのときは具体的な話というよりも映画の全体的なトーンとか、どうやってあのユーモアを映画で伝えるのかという程度。彼は最初から映画作りには干渉しないと言っていて、気を使うことなく好きにやってくれと話してくれました。

ーーそれは有り難いですね。

フェリックス そうですね。脚本の第一稿が出来たときも、完成したら観るから読まなくていいと話していたし。完成した作品を観たのも、プレミアム上映の一週間前くらい。感想がメールで届いて、「1回目は僕の作品をどうしてくれたんだ! と思ったけど、2回目でなかなかいいかもと思い直し、3回目で最高に気に入った」と書かれていてホッとしました。その後も何度か観てくれたみたいですね。実は、映画のなかでゴルバチョフが登場するシーンがあるのですが、その後ろにいる太めの将軍が彼です。

ーー出演もされているんですね。監督は今回、共同脚本家としても参加されていますが、脚本を書くうえで小説のどんなところに焦点を絞ったのですか?

フェリックス たくさんあるので難しいですけど、原作では主人公アランの過去に絡めながら、世界の歴史がしっかり描かれているんです。しかし、僕たちはアランの現在、100歳の老人の冒険を主軸に据えようと考えました。そこで、アランの過去や歴史に関しては、フラッシュバックというカタチで描いています。小説では人の心をいくらでも書けますが、映画ではいちいちセリフとして表現できないですからね。しかも、映画の中のアランはセリフも動きも少ないので、彼がどんな思考をしているのかを伝えるのがすごく難しい。フラッシュバックは、そのためにとった手法でもあるんです。編み出すのに一年くらいかかりました。

ーー原作のユーモアをいかに伝えるかもまた難しそうですね。

フェリックス そうなんです。原作のユーモアのトーンを維持することが大変でした。映画でのユーモアというのは、スクリーン上の空気感や雰囲気から立ち上がってくるもので。なので、有名な俳優がたくさん出て、テクノロジーも予算もたくさんかかっているような作品では、意外に笑いがうまく表現できていないことが多い。コメディは、小さい規模というか、シンプルなシチュエーションのほうがうまくいくんです。今回は10億円というコメディでは大作に入る予算でしたから、そこでいかにユーモアを伝えるかが心配の種でした。大事にしたのはリハーサルとキャスティング。単体のキャスティングだけでなく、さまざまなケミストリーを含めた相性を考慮するなど、撮影前にたくさんの作業を入念におこないましたね。

ーー10億円という制作費も驚きですが、どのシーンに一番お金がかかっていますか?

フェリックス アランを演じたロバート・グスタフソンの老人メイクは、かなりお金がかかっていますよ。あの特殊メイクは20ピースのパーツを顔に貼り合わせて、さらにウイッグを着けているんです。最初のテストでは完成までに8時間、慣れてきても5時間程度かかりました。しかも、撮影を終えて外すときには割れてしまうので使い捨てなんです。それがひとつ約70万円で、撮影が50日以上。さらに、衣装も時代考証をしたうえで役者ごとにオーダーメイドしていますし、SFXやVFX、CGなどエフェクトにもお金がかかっています。現場では常に「お金がない!」の連続でしたね。

ーーロバート・グスタフソンさんが、特殊メイクなしで演じていたタイミングはあったのですか?

フェリックス アランがスパイ活動を始めた頃が、わりと本人に近いですね。特殊メイクの話で言えば、最初の頃は一日にふたつの時代を撮影していたんです。でも、一度メイクを取り外して、肌が弱っているところにもう一度張り合わせると、肌が荒れて真っ赤になってしまって。それからは一日に一時代の撮影に変更しました。それでも、彼は毎日深夜3時半からメイクしてましたから。僕が朝8時半に「おはよう!」って元気にメイク室に入ると「なにがおはようだよっ!」って怒られる日もありましたよ(笑)。飲み物も細いストローでしか飲めない状態で、5時間じっとしているのは大変です。お腹も減るし、疲れてイライラするのは当然ですよね。

ーー映画でのユーモアは、コメディの派手さというよりも淡々とした物語の中に笑いがありますよね。この演出方法は、スウェーデンではクラシックなものだったりするのですか?

フェリックス たぶん現代的だと思いますね。ユーモアに対してスウェーデン人は新しいものが好きなんです。絶対にウケるようなベタな表現を使うと臆病者だと怒られる。新しい笑いの表現に関しては、前向きな国民性だと思いますね。でも、僕は些細なことにユーモアを見つけるのが好きなので、今回のようにトーンダウンというか、抑えた笑いは以前からやっていました。とはいっても、これまでの作品は結婚生活やカップルといった人間関係から生まれるセリフの応酬によるユーモアでした。今回のようにセリフが少ない抑制的なものは初めてでしたね。この映画がスウェーデンらしいのかという答えについては、国内の上映では「スウェーデンっぽくはない、インターナショナルな映画」と言われ、海外では「スウェーデンらしい」と言われたので、混在しているのかもしれないですね。そこはわからないです。

ーー監督はスウェーデンのみならずスカンジナビアで広く活躍されていますが、その地域は皆さんがボーダレスに活躍されているのですか。

フェリックス 基本的にはそれぞれの国で分かれていますね。ただ、ファッションやデザインに関しては国境をまたぎやすい傾向にあるかもしれません。逆に、コメディはなかなか隣国で通用しない。ノルウェー、デンマーク、スウェーデンは共通の伝統もあるのでわりと流通しやすいですが、フィンランドは独特ですね。彼らのユーモアは、よりダークな感じがします。3回聞いても意味がわからないジョークがあったりしますから(笑)。

ーースウェーデンの大注目作ということもあって、これでコケたら自分のキャリアが終わると悩んだそうですが、そのプレッシャーはどうはね除けたのですか?

フェリックス 主人公アランのように、あまり深く考えないようにしていました。未来に何が起こるかを心配し過ぎないことは大事です。この映画を手がけることは、一生に一度のチャンスだと思いましたし、どうせやるなら当たって砕けろという気持ちでした。とは言っても、眠れぬ夜を過ごしましたよ。それは大作にはつきものです。でも、若い頃は作品の結果ばかり心配していましたが、ある時期から考え直して、撮影をマジカルな体験として純粋に楽しむことができるようになりました。映画を作る喜びを現場で感じられるようになったのは、歳を重ねて変わってきたことですね。映画づくりが好きだからこそプレッシャーも大きかったですが、結果的にヒットして自分は恵まれていると思っています。

ーーこのウェブマガジンは、SHIPSというセレクトショップが運営しているのですが、ファッションはお好きですか?

フェリックス 大好きですよ。最近は、カジュアルとフォーマルをMIXしたようなスタイルが好きですね。実は、2年前にスウェーデンのファッション誌でベストドレッサー賞を貰ったこともあるんです(笑)。明日はショッピングに出かけようと思っているので、おすすめのショップがあれば教えてください。

ーーそれなら、是非SHIPSに足を運んでみてください(笑)。では最後に、記事を読んでくれた方々に、この映画を紹介するとしたらどのように宣伝しますか?

フェリックス う?ん、そうですね、この映画は最高のロードムービーだと思っています。いい意味でイカれた100歳の老人の大冒険を楽しんで欲しい。また、これを観ることで、世界の歴史の100年を辿ることもできる。多くの人に観て欲しいと思います!

ーー今日はありがとうございました。

本国スウェーデンでは、『アナと雪の女王』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などの大作を抑え、5週連続の1位を達成!
100歳の華麗なる冒険 11月8日(土)より新宿ピカデリー他全国ロードショー

監督:フェリックス・ハーングレン
脚本:フェリックス・ハーングレン、ハンス・インゲマンソン 
原作:ヨナス・ヨナソン
出演:ロバート・グスタフソン、イヴァル・ヴィクランデル、ダヴィド・ヴィバーグ 
2013/スウェーデン/115分/カラー/スウェ?デン語・英語・露語ほか/シネマスコープ/5.1ch
後援:スウェーデン大使館 提供:KADOKAWA、ロングライド 配給:ロングライド 
宣伝:クラシック 
公式HP:http://100sai-movie.jp/”100sai-movie.jp
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FELIX HERNGREN フェリックス・ハーングレン

1967年生まれ。’90年より、監督・脚本家・プロデューサー・俳優として活動。これまで100本以上のCMを手がけ、世界的にも評価が高い。TVの世界では、’96年にスタートしたトークショー『Sen kvall med Luuk』でブレイク。’10年には原案・脚本・監督・出演を務めた『Solsidan』がスウェーデンの国民的家族ドラマシリーズに。また、過去作の『Ulvenson & Herngren』が米国でリメイクされることが決定するなど、スウェーデンのみならず国際的に活躍している。