TRANSIT × BIRD NAONORI KATOH × SAYOKA HAYASHI TRANSIT × BIRD NAONORI KATOH × SAYOKA HAYASHI

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TRANSIT × BIRD
NAONORI KATOH × SAYOKA HAYASHI

SHIPS'S EYE

編集部ではまったく口を利かないTRANSIT加藤とBIRD林女史が、旅の途で道中を実況中継。第7回はブラジル・アマゾン川(加藤)と中国・貴州省の山奥(林)の旅路にて。おーい、たまには旅の話でもしようよ。

 (トルルルルートルルルルー)いつもやんややんやうるさいから、珍しくこっちからSkypeしたっていうのに、出ないじゃん!このご時世、つながらない場所なんてあるの!?(トルルルルートルルルルー)

加藤 いやースマンスマン。ちょっと今ピラルクーと格闘しててね。1メートル以上の大物だったんじゃないかな。知ってる?ピラルクー。幻の魚。人間が背負って同じ背丈くらいのもいるよ。さかなさかなさかな〜♪数が激減して本当はもう獲っちゃいけないんだけど、俺は正式な漁師の小舟に同行させてもらってるわけよ。ピラニアもいるよ。ピラニア!人食い魚っていうのは大袈裟な表現だな。かわいい魚だよ、ピラニアちゃーん。ガブっ!としちゃ嫌〜よ!的な…(以下、長いので省略)

 ああ、そうか…(また誰も話す人がいなかったんだな…10日間誰とも話さない日があるって言ってたし…同行の写真家がかわいそう…)。というか、釣りして遊んでるわけじゃないですよね?こちらは今、中国の貴州省で“お仕事中”です。たしか以前加藤さんは雲南省に行ったとかで、中国はどこも観光地化されてるだろうからきっとつまんないよ、と言われたのですが、とりあえずスルーしてやって来ました(笑)

加藤 そっかチャイナか…。犬鍋食ったなあ、あのときは……。雲南は少数民族が俗っぽくてちょっと苦手だっただけ。まあ世界中どこもそうだけど観光化からは逃れられないよ。「静かな生活」なんてものはもう存在しないのかもな。俺が今いるアマゾン川の細かい支流にさえカメラが入り込み、ネットケーブルが縦横無尽に走っているんだ。ほら、アマゾンからもFacebookにアップできるんだぜ。いいね!いいね!してくれるみんなもいいね!なんつってね!大安売りだよ。コジマデンキかよ。いいね!が安い!

 (無視して)ちょうど地球の裏側くらいですね。BIRD班はいくつか集落をめぐりながら、少数民族と彼らの暮らしを撮影しています。なかにはいわゆる観光村のような場所もあるのですが、雲南省よりも交通の便が悪いからか、ここでは外国からやって来た観光客はほぼ見かけませんね。

加藤 うん。やっぱり観光客が入り込めないところってまだまだあるんだよね。ガイドBOOKに載ったら終わりみたいなところがあるけどね。旅雑誌って難しいと思うね。こんな秘境にまで来て情報を発信したり受け取ったり加工したりするわけでしょ。編集者のサガっていうかね。アウトプットという病にかかっているのかもしれんな。目の前の空気をただ吸い込めばいいのにな。

 どうしたんですか?また哲学ですか?(アウトプット病…はどっかに置いておいて)BIRD次号は民族衣装を着た人たちの特集なのですが、村ごと、民族ごとに個性的な衣装に出会えていますよ。アマゾン下りでは何を撮影してるんですか?

加藤 いやー、すごいね民族衣装。ブスかわ系っていうのかな。ウチの娘みたいだな。かわいいー。あ、アマゾン?宇宙的な写真撮ってる。100万くらいかけてここに来たけど10枚しか撮らないよ。簡単にシェアでききない写真を持ち帰りたい。1枚1枚アイリーな光を待って、じっくりと自然と向き合ってる。人のいない静寂のアマゾンってかなり奥地に行かないとないから諸々チャーターしたりとか大変だよ。基本毎日水の上に浮いてる感じだな。

 ずっと川の上って……貴州省は食事も美味しいんですよ〜。ガイドブックの前情報でイヌやイナゴを食べる文化があることしから知らなくてかなり不安だったのですが、本当にどれも美味しい。四川に近いから唐辛子を多用するのでちょっとピリ辛ですが、食材は新鮮だし、食べ物には不自由しませんね。食事処へ入って、冷蔵庫に入った食材を指さすと、それらを使って調理してくれるのもありがたいです。

加藤 アマゾンでは基本ナマズ料理だね。ご馳走はピラルクー。超高級魚だね。けど魚はやっぱり日本人が一番うまく料理するね。あー、寿司食いたい!あ、人はどうなの?チャイナ。やっぱカネくれくれか?

 いやいや人も優しくて素朴で、英語は通じませんが、みなさん親切にしてくれます。イヤな思いもまったくしていませんね。取材は順調です!

加藤 それは良かった!にしても、アマゾンでもネットが使えるなんてね。こうやってSkypeしてると不思議な気持ちになるな。目の前のアマゾンと貴州省の山奥がつながってる事実にね。

 たしかに。TRANSITの取材で訪れたミャンマーの少数民族の村でもそうでしたが、グローバリゼーションの余波がこんな辺境の地にまでやってきていることを実感します。山奥の人は民族衣装を着ていますが、ふだんは洋服を着ている民族ももちろんいますし。携帯電話ももっていて、インターネットも使える。飲食店に入ると、聞いてもいないのにWi-Fiパスワードを教えてくれるくらい。今はまだ観光客は少ないですが、彼らの暮らしも町もこれからどんどん変わっていくんでしょうね。

加藤 まあ変化は止められないだろうね。「変わってほしくない」なんて旅人の身勝手なノスタルジーだからね。北京のビジネスマンも五体投地して聖地を目指す巡礼者も求めるものは同じだからね。「より良く生きたい」って気持ちはアマゾンの原住民も同じだよね。

 日本人が着物を着なくなったように、いつか彼らも民族衣装を着なくなるのかもしれません。それは彼らが決めることだから、私たちがとやかく言うことではありませんが、やっぱり寂しいですね。同様に、彼らの暮らしに電気が必要ないとは思わないし、外国の食文化が悪いとは言えないから、新しい文化が流入するのは運命(サダメ)かと。でも、たとえ暮らしのあり方や町が変わっても、その人自身は変わらないでほしいと思いますね。以前訪れたミャンマーでも今回の貴州省でも、人びとは本当に穏やかでやさしかったから。そんな彼らにまた会いに行きたいと思うんです。それもまた旅人の私欲であり、ロマンなんですけどね。

加藤 旅ってなんだろ?冒険ってなんだろ?編集ってんだろ?って考えちゃうね。おっとお魚ちゃんがかかったみたいだ。大物かもしれん!今夜のおかずだ!じゃあ元気で腹壊すなよ!サウダージ!!

 (原住民と一緒に写った裸の写真が送られてくる。Skype切れてる)あああ、哲学終わりなんてサイテーですね。というわけで旅への憧憬が詰まったBIRD&TRANSITお楽しみに!

加藤 直徳

1975年東京生まれ。編集者。出版社で『NEUTRAL』を立ち上げ、euphoria FACTORYに所属。現在トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長を務めている。最新号「美しきブラジル」は6月27日発売!
www.transit.ne.jp

林 紗代香

1980年岐阜県生まれ。編集者。『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、『TRANSIT』に参加。2013年に『BIRD』を創刊し、編集長を務める。6号「アジアの民族衣装」特集が6月20日発売!
www.transit.ne.jp/bird