新雑誌「PRODISM」が伝えること 新雑誌「PRODISM」が伝えること

新雑誌「PRODISM」が伝えること

新雑誌「PRODISM」が伝えること

SHIPS JET BLUE

2013年10月24日(木)。メンズファッション誌にまたひとつ新星が誕生した。雑誌名は『PRODISM』。プロダクト至上主義をコンセプトに掲げ、ファッション誌でありながらコーディネート提案などはなく、全編“物”で構成。モデルは使ったとしても顔は出さない。デザイナーやクリエーターも顔を出さない。そんな独自のルールを設けたある種ストイックな姿勢を貫く雑誌だ。編集長はこれまでasayanやHUGEなどを手がけてきた渡邊敦男。氏がそこに込めた想いとは?

――まずは創刊おめでとうございます。かなり読み応えのある出来ですが、そもそもどういった経緯でこれを作ることになったんですか?

「単純に僕がこういった雑誌を作りたいと思ったのが始まりです。企画書を作り、版元をまわり、広告などの営業も自分で。誰かに望まれて作ったものじゃないんです(笑)」。

――渡邊さんと言えばHUGEの制作にも創刊から携わっていらっしゃいましたが、ずっと雑誌作り一本でやってらっしゃったんでしょうか?

「いえ、実は僕は大学を卒業したあと、SHIPSで働かせてもらっていたんですよ。3年くらいお世話になったかな。でも働きだしていろんな人たちの刺激を受けているうちに、売るほうより創るほうになりたいなと思いはじめて。それで、当時asayanという雑誌を作っていたEATerというプロダクションに、募集もかけていないのに履歴書を一方的に送りました(笑)。そこから編集者としてのキャリアが始まりました」。

――独立されたきっかけは?

「入社して間もない時、EATerの社長に『右も左もわかりませんが、とりあえず10年お世話になります』って言ったんですよ。それでちょうど10年経ったのを機会に独立させてもらいました」。

――もともと独立志向があったということは、いつか自分の雑誌を持ちたいと思っていたんですか?

「いいえ。っていうか別に自我を出したいという気は今でもまったくないです。僕は雑誌編集に携わるかたわら、企業の広告やカタログの編集、およびコピーライティングなどをやらせてもらっているんですね。そうすると、やはりカタログですから“物”に特化したものを作る機会が多いんです。そういったものに取り組んでいく中で、改めて物撮りっておもしろいなって思ったんです。モデル撮影とは違う奥深さがあるなと。例えばウェブマガジンのhypebeastなどは“物”にこだわってスピード感のある情報の出し方をしていますよね。それはアジアのクリエーターの方々が手がけているものが多い。でもプロダクトへの執着や造詣って本来、日本人の専売特許的なものだったはずなんですよね。それが、ふと気が付いたらアジアの中でも遅れを取っている。そんな風に考えながらいろいろとファッション誌に携わらせてもらっていくうちに、“物”が主役の雑誌が一冊くらいあってもいいかなって思い始めたんです」。

――でも渡邊さんはウェブではなく紙媒体を選ばれたわけですよね。それはなぜですか?

「ちょうどそのとき“雑誌かウェブか”みたいな話が業界内でも盛り上がっていたんですが、僕は作り手次第の話であってどちらも効果的だと思っていたんです。今現在、廃刊や休刊する雑誌は実際に多いです。でも雑誌の魅力って絶対にある。スピード感では負けますが保存性が高い。ウェブの情報はインスタントに消費されがちですが、雑誌はより深く好奇心が煽られる。だから今回は丸ごと物で構成するファッション誌というのを作ってみたらおもしろいかなと思ったんです」。

――企業のカタログや広告の制作で培った物にフォーカスする視点と、時代を象徴するファッション誌を作り続けてきた経験値が融合してこういう形になったと。

「ですね。カタログの役目って物欲を掻き立てるツールだと思うんです。それと同じ目的を持ったファッション誌って意外と少ないなって思ったんです。格好いいファッション誌を作りながら、これを見て読者がショッピングを楽しもうと思ってくれるものを作りたかった。一言で言えば“ビジュアルにこだわったプロダクトファッションマガジン”ということです。ページをめくった瞬間、そこに掲載されているものに魅了される。この一冊の中に読者にとって一個でもそんな物欲を掻き立てるものがあれば、この雑誌の役割は成立しているのかなと思っています」。

――とても理にかなった、コンセプチュアルで新しい雑誌だと思います。反面、難しい面もありますよね。

「確かにハードルは自分で高くしてしまったなとは思っています。ただ集まってくれたスタッフを見ていると、このメンツが集まるなら多分成功するなって言う自信はあったんですよね」。

――物事というのはとにかく出だしが肝心ですが、走り出す上で重要視したことは何ですか?

「コンセプトを簡潔にするということです。今、ライフスタイルマガジンなどはとても多くありますが、コンセプトが多様になりすぎていて的を絞りきれない読者もいるのではないかなと。概念は分かるんだけど具体性に欠けるというか。あと、僕は他の人に自分の生き方についてとやかく言われたくない、という気持ちが強いので“ライフスタイル”と書いてあるものを見ると、つい抗ってしまうクセがあるかも。うん、悪癖です(笑)。この雑誌って、単純にいいものはいい。そういいきっているだけなんですね。そしてそれをいかに格好よく、最大限魅力を引き出して表現できるかって言うことを追求しているだけ。そうすることで読者にダイレクトに通じるのかなと思うんです。『プロダクト至上主義』って言うのはそういうことなんです」。

――ちなみに読者のターゲットというのは設けているんですか?

「年代的には30歳以上という風には想定しています。が、特にそこに縛られることはありません。紹介するものも“プロダクト”という概念で通じるアイテムであれば、どんどん広げていこうと思っています。プロダクトを主役にしている以上、“??系”でくくっちゃいけない気がしているんで。今後、僕の知らないカルチャーとか知らないカテゴリーも増えてくると思います。自分も新しい発見ができる。そして今まで見たことないものが欲しくなる。そういった化学反応がこの雑誌を通じで実現できると嬉しい。例えば対象が食品だっていいんです。どうしたらそれを“プロダクト目線”で紹介できるか。いろいろ考えは広がります」。

――仕上がりを見てみて、編集長としてはいかがですか?

「ようやく、と言った感じです。でも点数をつけるとしたら60点くらいかな。やりたいことはもっとあるし、精度も上げられたはず。だからそれは次号で改善します。RODISMは10回で一区切りかなと思っているので、一号一号集中して作らないと」。

――10号で終わるんですか!?

「とりあえず今はそのつもりです。雑誌って10回も出せばテイストが分かるじゃないですか。もちろん、そのときがきて、まだまだPRODISMとしてやりたいことがあればやればいいし、10号目に惰性的な匂いがするのならまた違うことをやればいい。でもとりあえず10回なら10回と目的を決めて、一号ずつ惰性で作れないプレッシャーを自分にかける方が僕は性に合っているかなって。1年に4回出すので、都合2年半ですね。そう思うほど僕も集中して物作りできそうな気がします。それまでにどう広がるかは自分でも楽しみですね。……って10年くらいやっていたら笑えますけど」。

渡邊 敦男

1973年生まれ。大学卒業後SHIPSにて販売員を経験。その後、編集プロダクションのEATerに入社。asayanやHUGEなどを手がける。その他、honeyee.comやOUTSTANDINGなど時代を象徴するファッションメディアで活動。現在はブランドのカタログや広告の制作も携わっている。

PRODISM

PRODUCT+ISM=PRODISM。プロダクト至上主義を掲げ、全編にわたり顔出しを一切しない、まったく新しいコンセプトのメンズファッション誌。時代に左右されない良質なプロダクトをいかに格好よく表現できるか。それのみを追求したストイックな構成はどのページも必見だ。今自分に必要なプロダクトにきっと出会えるはず。