このアーティストに会いたい! ゲスト:FPM=田中知之さん このアーティストに会いたい! ゲスト:FPM=田中知之さん

このアーティストに会いたい! ゲスト:FPM=田中知之さん

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このアーティストに会いたい! ゲスト:FPM=田中知之さん

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約3年2か月ぶりにオリジナルアルバム『Scale』を発表したばかりのFPMこと田中知之さん。DJとして国内外を飛び回りながら、最近は自身のファッションブランド「List」も立ち上げ、多方面で活躍されています。今回はニューアルバムについての話題を中心に、独自のファッション感についても語ってもらいました。


――今回のアルバムはバラエティに富んだ楽曲が揃いましたね。

田中 いま、ダンスミュージックが世界的に隆盛を極めているみたいな論調がありますよね。でも、チャートにある曲はどれも同じ人が作ったんじゃないかと思うほど、同じ音色、同じアレンジ、同じ雰囲気の曲ばかりのような気がするんです。それって危機的な状況だと思うんですよ。本来、もっとも自由でもっともアンダーグラウンドだったはずのダンスミュージックが、いま一番つまらないものになっている。FPMを始めた約15年前、僕が曲を作るモチベーションは、DJでかけたい曲が売っていないというものだったんですね。ここ2〜3年はまるでその頃のような気持ちになっているんです。今回のアルバムは、ダンスミュージックとしての流行りを取り入れながらも、他にはないものを作ろうとした結果なんです。

――『Scale』というタイトルですが、これは定規という意味じゃないんですよね?

田中 同じスペルですが、今回は鱗(ウロコ)の意味でつけたんです。ジャケットも鱗みたいでしょ? これはフレデリック・ル・シュヴァリエさんという、フランスのグラフィック界で注目を集めている方にお願いしました。たまたま彼とつながるきっかけがあって、作品をジャケットに使いたいなぁ〜と思ったんですよね。鱗ってひとつひとつは有機的に美しいけど、それがいっぱい並んでいると無機的に見えるじゃないですか。僕が作るダンスミュージックにすごく似ている気がしているんですよね。

――彼のグラフィックが散りばめられたブックレットも、小さめサイズでかわいいですね。

田中 groovisionsがデザインしてくれているんですけど、初回盤は紙の素材にもこだわっています。デジタル配信が増えるなかで、マテリアルとしてのCDは多くの人にとって必要でない商品になっていて。なので、初回限定盤はブックレットの大きさや紙の質感にすごくこだわったんです。いつまでCDがあるかわからないですけど、発売できるうちはモノとしての完成度にもこだわりたいんですよね。おかげさまで、初回限定盤は店頭にある分だけみたいで。同じ値段なので、願わくばそちらを手に取って欲しいなというのはあります。

――今回、the HIATUSの細美武士さんと、環ROYさんをゲストヴォーカルに迎えていますが、この人選はどのように生まれたんですか?

田中 細美くんには、10ccの名曲『I’m Not In Love』の曲に歌詞と唄をのせるという試みに参加して貰いました。細美くんはすごくプロフェッショナルなヴォーカリストなんですよ。最近のレコーディングって、タイミングや音程が少しずれても後でコンピューター上で直せたりするんですね。でも彼は最初から「基本的に唄は直さないんで」と宣言して、納得するまで何度でも歌うんです。僕らが「もう十分じゃん!」と言っても、「あと5回だけ歌わせてください」っていうほどストイックでしたね。その姿に頭が下がりました。ここ数年、僕らが唄だと思って録音していたものは、実は唄の部品でしかなかったんだなと思って。

――環ROYさんはどんなきっかけで?

田中 イベントで一度ご一緒したときにいいなと思って、彼の存在感が大好きなんですよね。

――新しいタイプのラッパーですよね。

田中 ですよね。自由な感じがするし、環ROYと曲を作りたいと思ってオファーしました。彼も細美くんと似たところがあって。ラフに歌っているみたいに見えるけど、録ってみたらリズムもノリもバッチリで素晴らしかったですね。

――今回のアルバムも全体的にバラエティに富みながら、FPMらしさはしっかり出ていますよね。

田中 FPMっていうのは、自分であって自分ではないようなものなんです。俯瞰で見ながら「これってFPMっぽいよね」とか、他人事みたいに作っている面もあって。

――以前も、田中知之ではなくてFPMとして活動しているから、プロデューサー気分で作れると仰っていましたよね。

田中 そうなんですよ、自分自身を投影しだすと照れくさくて何もできないですけど「FPMだからいいじゃん」っていう開き直りができるんで。

――田中さんが思うFPM像ってどんなものなんですか?

田中 う〜ん、どうなんでしょうね。言葉で表せないからアルバムにしているっていうか。FPMっていうのも自分のなかでアップデートしているし、いろんな変遷がありますからね。でも、やっぱり最新鋭でなきゃいけないと思うし、ポップでなきゃいけないし、アカデミックじゃなきゃいけないとも思うけど、下世話でなきゃいけないし。そういう相反するものを内包している、ないものねだりなものだと思いますね。

――曲のまとめ方など、確信犯的なものを感じますよね。

田中 きれいにまとまっているポップスにまったく興味ないんですよね。音楽的にグロテクスな部分があったり、未完成な部分があったり、どこか破たんしている点をチャームポイントにしたい感覚があって。よく聴くとヘンだぞっていう部分がないと、逆に不安になるんです。洋服でいうとピカピカのジーパンとか、おろしたての白いキャンバススニーカーとかを汚したくなる感じ。

――その感性は田中さん自身が出ている点ですか?

田中 そうでしょうね。だってボク変態ですもん! 高校生のときはフリージャズやドロドロのファンクしか聴いてなかったですし。若いときはオシャレな音楽なんてクソ喰らえと思ってたから。今でもFPMはオシャレな音楽だと思っていなくて、オシャレなふりしているだけなんです。殺人鬼なのにすごく物腰が柔らかくて紳士的な人っているじゃないですか、ああいう感じなのかなって。

――ファッション的にはどんな変遷をたどっているんですか

田中 10代のときにバンドをやっていて、ちょうど大学卒業くらいにバンドブームが終焉したんですよね。それで音楽では食べていけないと思ったので、アパレル企業の企画部に入社したんですよ。洋服は音楽より好きかもしれないですね。いま自分でもList(リスト)ってブランドをやっているんですけど。本当に古着がすごく大好きで、古着にお金を使っている日本人のランキングに入る自信がありますね(笑)。

――DJで海外に行かれることも多いですけど、各地で洋服は見ているんですか?

田中 古いもの全般が好きなんですよ。古着や古レコード、古い家具、古本も。だからヴィンテージショップは必ず行きますね。でも、最近はちょっとやそっとのモノじゃ納得いかないんです。いわくつきの、かなりヤバいものでないと欲しくない。そういうものは値札を見ると必ず3500ドルとかして、自分が欲しいと思うものは高いですね。

――FPMではなく、田中知之を表現している場はどこかにありますか?

田中 ファッションの趣味に関しては、List(リスト)ですかね。そこは自分の変態性を表現する場所なんですよ。売れなくてもいいやと思っていますから。でも、パリのギャラリーが現代アートとしてとらえてくれて「エキシビジョンをやりませんか?」と声をかけてくれたりしています。日本のセレクトショップや小売店のバイヤーさんには一切受け入れないんですけどね(笑)。でも、DJとして自分のルーツを出す現場もありますし、いまはいろいろとやれて幸せです。

――今日はありがとうございました。

『Scale』

FPM
avex trax

ダンスミュージックが本来持っている自由さを、ボーナストラックを含め全12曲で魅せたFPMの最新サウンド。CMやwebコンテンツのために制作したトラックを再構築した楽曲も多く、どこかで聴いたことがある! と思う人も多いはず。

田中知之(FPM)

DJ/プロデューサー
ダンスミュージックに自身のルーツを散りばめた独自の音楽スタイルが支持され、これまでに8枚のオリジナルアルバムの他、多数のアーティストプロデュースを手がけている。DJとしても国内だけにとどまらず、世界約50都市でのプレイ。また、リミキサーとして布袋寅泰、浜崎あゆみ、くるり、UNICORN、サカナクションなど現在までに約100曲もの作品を手がけている。その他、CMやアプリの楽曲制作をおこなうなど多方面で活躍している。