スペシャルインタビュー KIDS LOVE GAITEデザイナー 山本真太郎 スペシャルインタビュー KIDS LOVE GAITEデザイナー 山本真太郎

スペシャルインタビュー KIDS LOVE GAITEデザイナー 山本真太郎

スペシャルインタビュー KIDS LOVE GAITEデザイナー 山本真太郎

SHIPS JET BLUE

東京発のシューズブランドとして今最も注目を集めているKIDS LOVE GAITE。堅牢な作り、独特のボリューム感、斬新なデザイン。そんなこれまでにないスタイルが人気だが、それらのアイデアは一体どこから生まれてくるのか。デザイナーの山本真太郎氏の言葉から、そのルーツとアイデンティティが見えてきた。


――まずは山本さんが靴のデザイナーになったきっかけからお聞かせください。1990年に渡英していますが、それは靴作りの勉強のために?

いえ、それがまったくそうではなく、もともとは渡英したのは高校に入るためだったんです。それが1990年、15歳の時です。最初はイギリスの地方にいたんですが、結局途中で高校もやめてしまいロンドンに移動。その時にクリストファー・ネメス、ジョン・ムーア、ジュディ・ブレイムらが作った『ハウスオブビューティアンドカルチャー』というショップを知って、そっちの世界に傾倒していったんですね。そのときすでに靴デザイナーだったジョン・ムーアは亡くなっていたんですが、イアン・リードとそのパートナーである木村大太がブランドを引き継いでいて、ザ・オールドキュリオシティーショップが出来た。なんとなくそれを手伝うようになったのが靴をいじり始めたきっかけです。当時はそのショップにいろんな人が出入りして、サロンっぽくてすごくおもしろい環境でしたね。

――美術大学にも通われていたんですよね?

20歳の頃から通っていて、3Dという形で作品作りもしていました。例えば自分でタキシードを着て、マスクを被って、お尻に穴を開けて、オールドキュリオシティーショップのショーウィンドウに入るっていうパフォーマンス的な活動もしていましたね。イギリスにはほかにもおもしろいアーティストがたくさんいて、その影響をすごく受けていたと思います。とにかくその時は変なパワーみたいなものを毎日感じていました。僕はSOHOに住んでいたんですけど、そこにロニー・スコッツ・クラブっていう有名なジャズクラブがあって、そこの目の前であのキザイア・ジョーンズが急に歌い出したりとか。そういうのが特別ではなく普通にあったんですよ。今考えるとすごいことですよね。


――日本に帰ってくるきっかけはなんだったのでしょうか?

渡英して10年が経っていて、ビザの問題もありつつという感じですね。ただ、15歳で日本を出てしまった分あまり日本のことも知らなかったし、向こうで感じてたこと、客観的に日本を見てたところを、ちゃんと確かめたいなという意識は強かったと思います。それで戻ってきました。

――その時はもう靴作りをするつもりで?

そうですね。ただ自分のブランドを持つという感覚はなかったです。どっちかというと作り手、職人、というところの方が強かったかな。ただ日本とイギリスの状況って全然違うし、実際に作るということに関してはまったく想像できていなかったので、その辺もふまえてまずは様子を見るという感じでした。

――実際、日本に帰ってきてどうでしたか?

向こうではアルチザン(職人)というのはすごく尊重される存在なのですが、日本ではその感覚が薄いということに驚きました。つまり職人が単純に製造の下請けとして扱われていることが多いんです。その価値感のギャップは大きかったですね。それと“ファクトリーブランド”が成り立ってないこと。例えばイギリスの靴の工場だとトリッカーズやチャーチがありますよね。あれはそもそも工場で、その中でオリジナルブランドを展開しているということなんです。日本ではまだそういった環境が成熟していなかったんですね。

――ちなみに当時はどんな仕事をされていたのですか?

OEMを請け負う会社で7年間ほど主に営業の仕事をしていました。その中で職人に対するリスペクトの意識の低さを感じたんです。逆に言えば作り手ももっと自己主張をしていいと思いました。


――そんなフラストレーションの中で、だんだん自分でも作りたいという気持ちが芽生えてきた?

というのはもしかしたらあったかもしれませんね。

――そして2008年、遂にKIDS LOVE GAITEがスタート。イギリスのカルチャーを知り、アートを知り、職人を知り、営業も知っている。それは他の人にはない強みですよね。作りたい靴のイメージは最初からあったんでしょうか?

明確にあったわけではないですが、ブリティッシュテイストというのは自分に染み付いている感覚なので、それはどうしても強いですよね。イギリスで培ってきたカルチャーを靴でどう表現できるかって言うのが、ある意味ではテーマでした。あとはデザインをするにあたり重視していたのは“ギャップ感”です。

――意外性というか

まさにそうですね。“こういうデザインには普通革底しかつけませんよ”って言うセオリーは打ち破っちゃっていいんじゃないかと思う。それでダメだったら次のステップに進めるわけだし、良ければOK。保守的なままでは進化しませんから。

――KIDS LOVE GAITEの靴の魅力は、新しいデザインを提案しながらも決して行き過ぎてはいない絶妙なバランスにもあると思います。その辺の感覚は意識していたんでしょうか?

まあ僕の靴が行き過ぎかどうかって言うのはお客さんが判断することだから実際は分からないですけど(笑)。でも世にずれていてもダメだという意識はありますね。実はその辺のバランスをとるために、今年からコレクションを2つのラインに分けたというのもあります。ひとつはコンセプチュアルラインでデザイン性の強いもの。そこでは表現の仕方として「もっとこういうことができるんだ」ということを思い切って出しています。そしてもうひとつは定番もの。まあ僕の中での勝手な定番ですが。今はその両輪で展開しています。

――今回のコンセプチュアルラインはどういったテーマなんでしょうか?

今回は「TWO FACE」がテーマです。これは“もっといろんな材料を靴に使いたい”と思った時に行き着いたコンセプトです。靴はふたつでひとつなので揃ったところで完結すればおもしろいのではないかなと。来年の春夏もこのテーマで展開して、その次はまた新しいコンセプトを考えようと思っています。今はまだ構想中ですが。


――ちなみにラバーソールもこのブランドの象徴的なデザインだと思うのですが。

それは、さっき話したギャップ感から生まれたものなんです。ビブラムソールを一枚つければいい靴に、中板を積めるだけ積んだ分厚いソールをつける。そうするとこう、ちょっと変なバランスが生まれるでしょ。それがおもしろくてついつい厚底が増えてしまうんですね。だからこの先、もしかしたらコレクション全体が超薄底になることもあるかもしれませんよ。厚底であることが目標ではなく、大事なのは意外性ですから。

――なるほど。となると、次はどんな仕掛けがあるかシーズン毎に楽しみですね。

僕の靴を買ってくれる人に対して僕が常に思うのは、飽きさせちゃいけないということなんです。もっとこういう表現ができて、もっとこういう楽しみがあるっていう可能性を伝えたい。そして靴で思い切り遊んでほしい。それが自分の靴作りの原動力ですね。

ギリーシューズ ?48','300、ウィングチップシューズ ?58','800、ブーツ?50','400

山本 真太郎

1974年8月28日生 東京出身
1990年に渡英。1995年にCAMBERWELL COLLEGE OG ARTSに入学。1996年からThe Old Curiosity Shopにてシューズデザイナー、イアン・リードのアシスタントとして勤務。2000年に帰国し、OEMの企画営業などを経て、2008年秋冬コレクションよりKIDS LOVE GAITEをスタート。
2011年からスタイルで再スタート。