たまには旅に連れてって ? たまには旅に連れてって ?

たまには旅に連れてって ?

たまには旅に連れてって?

たまには旅に連れてって?

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前回の一人旅の記事で「ああ、誰かを連れて行けなくてもいいんだ。こういうパターンも有りなんだ!これでいいのだ〜」と石原慎太郎および赤塚不二夫センセイ的に専断した俺は今回、「SHIPS MAG 1周年」を勝手に記念して、「オレが連れて行きたい一番の場所BEST10」を発表することにした(拍手)。みなさんコニャニャチハ。

川越の南にある凡庸な県立高校を出て、名前を書けば入れる大学をダブりつつ卒園し元服した俺は、憧れていた雑誌編集者となった。入社当時は新鮮味もあったが、やがて作りたいものが作れない!全然売れないし!という行き場のないジレンマが頭の中を支配していく。気がつけば出社もせず早稲田松竹/名画座のスクリーン中で、昼夜問わず世界中を旅する日々に埋没していく。要はダメ社員。当然クビ宣告され、まあ辞める前一勝負するか、と立ち上げたのが旅雑誌「NEUTRAL」である。雑誌は通常0号を作って「こんなん出ますよ〜」と挨拶回りにいくのが通常だが、もちろんそんな予算はなく、手作りのカラーコピーで作ったそれをSHIPSの恩人が目にとめてくれて関係が始まったのである。創刊から現在のTRANSITに至るまですべての号で、SHIPSと一緒に作った広告ビジュアルを見ることができる。

NEUTRAL12冊、TRANSITになって現在16冊、川越を離れ随分遠くに来てしまった感覚がある。20カ国以上を旅したし、奇蹟の風景や、エー!?というヘンテコな人々に邂逅してきた。0から1へ。デジタル表示はその間をすっ飛ばしてすぐに1に変える。けれど物づくりは、0から1の間に情熱やら、怒りやら喜びやらを無限に刻んで、ようやく1になる。0から1に辿り着いたSHIPS MAGへの賛辞によせて、「あなたと見たい景色。大切な人といつか行きたい場所」を自分なりにランキングで発表してみたい。



?MASAHIRO TOMII

インドについてはぱっきり好き嫌いが分かれるところだが、動物と人間の距離の近さ、プリミティブさにおいて追随を許さない。写真は「色かけ祭り」の様子。色のついた粉や液体を投げ合うだけ、という単純すぎる祭りだが「やり過ぎ感」がインドの真骨頂。タクシーの中に逃げ込んでも運ちゃんが色の水を投げつけてくる(笑顔がムカつく)。けどこの色の洪水の輪に入って爆音で踊るインド人と一体化したときはじめて、インドが少しわかった気がしたのだ(すぐに忘れたけど)。一か八か本命のコを連れて行けば良いも悪いも結論だけは出ますよ。

?MASAHIRO TOMII

意外に思われるかもしれないが、地図上でヨーロッパの真ん中にあるのがプラハ。ここは中世の街並みがそのまま保存され、バロック、ゴシック、キュビズムなど歴史をめぐってきた建築物が一同に介する。そして世界中からやって来るカップルたちも相まって、最高にロマンティックな雰囲気を醸し出す。けれど俺は、パリからユーロスター(列車)で入り、プラハ、ブダペスト(ハンガリー首都)のロマンティック紀行をおっさん3人でめぐるという暴挙に出てしまい、やけくそ気味に撮った写真がコレ。チェコはカップルで行きましょう、ゼッタイ。

?MASAHIRO TOMII

「ロン(ドン)・パリ・ニューヨーク」、オサレなファッション編集者でもなかろうに…とずっと敬遠していたパリ。「世界の美女を探す」という嫁が勘違いして喧嘩になりそうな特集をやった際に、遅まきながらじっくりとパリを訪れた。絶対感化なんてされないもんね僕ちんはっ、と息巻いてシャルル・ド・ゴール空港を出た瞬間、ほんのり香る薔薇の芳しき香りにヤラれてしまった。オオカミ少年だと思われるかもしれないが、パリは本当に薔薇の香りがするんです。写真の少女は公園にたまたまいた14歳で、煙草をふかしていた…。新緑と美しい光り、パリの風景に溶け込む彼女を見たとき、目が?になってしまいました。すみません。

?MASAHIRO TOMII

滝の名所は数多い。けれどスケールにおいてイグアスに勝るものはない。なにしろブラジルとアルゼンチン両国にまたがり、国境にもなっているほどバカデカい。音もすさまじく、数q先から向かう車内からでも地響きのような轟音を感じる。日本のそれのように厳重に柵で守られているわけではないから、ほんの目の前で爆音と爆流を堪能できる。無数の虹がそこら中で現れ、水量の凄まじさは筆舌に尽くしがたい。ボートで滝に接近するツアーも出ており、天然の遊園地の如し(これがまたもの凄い恐怖体験)。倦怠期のカップルにオススメしたい。

?YAYOI ARIMOTO

イランと聞いて「怖い」とか「危なそう」とか負のイメージを持っている人は少なくないだろう。でも断言する。イランは素晴らしい国である。まず人が親切。「旅人をもてなすこと」が宗教上常識とされているから、首都テヘランであっても大歓迎を受ける(特に日本人は)。強引な観光ガイドも物売りも存在しない。そしてモスクの造形美は一生脳裏に残るほど感動する。細かい手仕事による装飾は、外観も内部も宇宙を感じるほどに美しい。写真は月を追いかけてイラン中を撮影してまわったときのもの。ヤズドにある世界一高いミナレットの間に三日月を配置するために3日間くらいかけた。

?TAISHI HIROKAWA

言わずと知れた広大な塩湖。真っ白な景色の中を4駆で走り抜ける爽快感は体験しないとわからない。ネットやテレビで見るのと実際とで一番違いを感じた場所はここだ。雨季は塩湖に水が張り、満月の夜には明るく水面を照らす奇蹟が見られる。ボリビアはゲバラが志半ばで命を落とした土地。南米は若かりしゲバラたちのように男2人で旅したい。

?MASAHIRO TOMII

社会主義。そう聞いても歴史の教科書に出てくるような遠い昔話のように思えるかもしれない。けれどキューバはいまだに社会主義をかたくなに守り、Nationalityとは何か?を否応なく突きつけられる希有な国である。写真は「結婚特集」で取材した首都ハバナでの国営結婚式の様子。なんとこの国ではケーキも配給されるのだ。この後、ハバナの海岸沿いを古いアメ車に乗って2人はパレードした。結婚とは何か?幸せとは何か?に迷っている子羊ちゃん、キューバでモヒート飲みながら答えを探すべし。

?KEI TANIGUCHI

南アフリカ共和国の上に位置するナミビア。都会の白人社会・南アから車を丸1日飛ばせば、動物王国ナミビアに入国できる。写真は風と砂の音しかしない静寂の大砂丘・ナミブ砂漠を撮影中、1頭のオリックス(名前のわりに姿は知られていない)が警戒しながらも近づいてきた瞬間を捉えたもの。そして夕暮れ時、アプリコット色に染まる砂の山は忘れがたい。ロッジに戻り真夜中になれば、南半球の見たことない星たちが降り注ぐ。ありきたりのリゾートじゃ満足できないワガママ娘を連れて行きましょう。

?DAI

オーロラは一生に一度は見ておきたい。アラスカやカナダも有名だが、原住民族サーメの人々(衣装が半端なく美しい)やフィヨルドに巨大氷河……何にせよ遠くに来た感を味わうならノルウェーのラップランド(要するに北極圏)でのオーロラ体験をオススメしたい。天候によって左右されるが、冬のシーズン時には高い確率でオーロラが夜空を舞う。ノルウェーは旅行のしやすさもあって両親を連れて行きたいと思っちゃったんだよね、俺は。

世界中をまわった旅人が最後に辿り着く約束の地、イエメン。アラビアの真珠とたとえられるがその実、半島の最貧国である。だからこそ現代に失われた何かがあるはず。写真は記念すべき第1号の表紙にもなった首都サナアの旧市街。このお伽噺が現出したような世界に、独特の刀を脇にさした男たちが闊歩し、人々が実際に住んでいるから驚きだ。路地裏にもカメラが入り込み秘境は消えた…と嘆くならばイエメンがまだあるじゃないか。冒険譚に終わりはない。

加藤直徳(かとうなおのり)


1975年生まれ。編集者。出版社で「NEUTRAL」を立ち上げ、euphoria FACTORYに所属。現在トラベルカルチャー誌「TRANSIT」編集長を努めている。最新号はイタリア特集で6月22日発売!
www.transit.ne.jp