35thスペシャルインタビュー ―Begin 波多和久編集長― 純粋無垢なものに「STYLISH STANDARD」を感じる 35thスペシャルインタビュー ―Begin 波多和久編集長― 純粋無垢なものに「STYLISH STANDARD」を感じる

35thスペシャルインタビュー ―Begin 波多和久編集長― 純粋無垢なものに「STYLISH STANDARD」を感じる

35thスペシャルインタビュー ―Begin 波多和久編集長―
純粋無垢なものに「STYLISH STANDARD」を感じる

SHIPS MEN

食品からファッション、漫画まで、さすが『Begin』編集長! というような品々を持ってきてくださいました。雑多なように見えますが、ここに選ばれたものはすべて共通したポイントがあります。それは「狙っているように見えないのに、味があるもの」。波多編集長が考える「STYLISH STANDARD」をお聞きしました。



波多 「STYLISH STANDARD」をテーマにモノを選ぶのはすごく悩みました。この話をもらったときから念仏のように唱えていて(笑)。

−悩ませてしまってすいません、しかも、いろいろと持ってきて頂きましてありがとうございます。

波多 僕は食べ物が好きで、ジャケ買いならぬパケ買いをよくするんですよ。パッケージで選ぶと美味しいものにあたることが多くて。この旭ポンズもすごく美味しい。あのやしきたかじんさんが「旭ポンズ以外はポンズにあらず」と言ったほどです。あと、このフラのポテトチップスも最高。これが世界で1番だと思いますね、2番はイギリスのウォーカーズ。チキン南蛮甘酢は、これを肉に浸して、その上にタルタルをかけるんです。こんなんでいいのかな?

−『Begin』ぽくて、最高です。

波多 どれも純粋無垢で、狙っていない感じが味に出ているんですよね。スタイリッシュって狙わないことだと思うんですよ。本当は腹の底で狙っているのかもしれないけど。だから、パッケージに「復刻版」って書いてあると興醒めするんです。

−食品だけじゃなく本もありますね。

波多 この『ビジュアル博物館』は、僕が雑誌を作るうえで影響を受けているというか、この本に近づきたいと思っている一冊ですね。写真は俯瞰でキレイに撮っていて、そこに図版が入っていたり、引き出し線で解説が載っていたり。本を作るときは、いつも部員たちにこれを見せています。あと、ここにはないけど『ゴルフ トゥデイ』も勉強になります。ゴルフってまっすぐ遠くに飛ばすだけの目的に対して、いろんな表現をするじゃないですか。雑誌もいっぱいあるし。「電話ボックスのなかに入っているような感じで打て」とかね。そういう誌面展開がいいなと思って、毎月買っていますね。自分にとっては、「STYLISH STANDARD」なものです。

−先ほど、スタイリッシュは狙わないことだと仰っていましたが。

波多 狙っていてもいいんですよ。でも、狙いが見えた時点でスタイリッシュじゃない。ここにあるものは、どれもそれが見えないから素晴らしいんです。

−それはすべてにおいて言えることですか。

波多 シンプル過ぎてもつまらないと思うんですよ。僕はクラシックとベーシックは違うと思っていて、クラシックなものは退屈で好きじゃない。一方でベーシックは常に進化していて、その時代のスタンダードを追求しているものだと思う。進化を見せず、さりげなく変化しているものが好きですね。プロの仕事は何でもそうだと思いますよ。一般の人は気づかないけれど、すごくこだわって作られている。そこが、「何となくいい」という評価につながる。雑誌作りもそうですね。

持ってきて頂いたモノ(順不同):早川「あまくち 刺身醤油」、サフランソース「プリンスゴールド 中濃」、旭食品「完全味つけ 旭ポンズ」、千六食品「チキン南蛮 甘酢(チキンマリーネ)」、ナイル商会「インデラ・カレー」、村上スッポン本舗「村上すっぽん スープ」、ソシオ工房「フラ うすしお味」。「ビジュアル博物館」スポーツ/カウボーイ(同朋舎・角川書店)、「あしたのジョー」(講談社)。
アディダス「SL76」。 DVD「明日に向かって撃て!」、「スティング」。

−『あしたのジョー』もありますね。

波多 大好きなんですよ。漫画はほとんど読まないんですけど、これだけは小学校のときから常に手の届くところに置いています。僕らよりも下の世代は『スラムダンク』なので、ちょっと読んでみましたけど中性的な感じがしましたね。これは完全に男の世界。でも、これは懐古趣味的なクラシックなものかもしれないですね。

−『あしたのジョー』に登場するキャラクターで、「STYLISH STANDARD」なのは誰だと思いますか。

波多 えっ、すごい質問だな。やっぱり、丹下段平じゃないですか(笑)。あと、マンモス西がジョーに殴られて鼻からうどんを出すシーンが好きですね。それと、よくコマの合間にポッと街の絵が挿しこまれているんですよ、あれがすごい好きで。夕陽とか町工場とか。あぁいう描き方はかっこよくて好きですね。

−ファッションにおける「STYLISH STANDARD」はどんなものだと思いますか。

波多 今日はいつもよくしている恰好をしてきたんですけど。このオールデンは普通に履いてもつまらないので、靴ひも替えています。ポイントは縦結びにしていることですね。外人の不器用な人が結ぶと縦結びになるじゃないですか、ラルフローレンのルックブックとかを見るとみんな縦結びになっていて。

−ラルフローレンが? それはわざとなんですかね。

波多 いやっ、う〜ん、狙っているんですかね。僕は完全に狙っていますけど(笑)。そのミステリアスな感じがいいんですよね。

−雑誌に掲載する商品っていうのは、どういう視点で選ばれているのですか。

波多 僕はいろんなジャンルのモノに興味があるので、一番好きな場所は家電量販店なんですよ。最近はブランドものからお酒まで、何でも揃いますからね。でも、量販店のような誌面は目指してないです。やっぱりセレクトショップみたいに、ちゃんとフィルターを通してから読者におすすめしたいですね。

−『Begin』フィルターっていうのは、やはり時代によって変わりますか?

波多 もちろん変わるんですけど、あえて逆張りもしますよね。みんなが赤いものを欲しがっているけど、本当に欲しいのかという検証はしますね。何でもかんでもトレンドだから、イタリアではこうだからというのはつまらない。カウンターの発想は常にあります。トレンドは大事ですが、引っ張られることはしたくないですね。

−ずばり、『Begin』フィルターとはどんなものですか。

波多 単純に「編集部員がお金出して買いたいか?」というところですね。たとえトレンドだとしても、買わないものを大きく載せても仕方がない。そこは常に言っていますね。そのときどきで何を買うかは変わりますけど、まずは欲しいかどうかが重要です。冷静なトレンド分析はその次の段階ですね。

−なるほど。今日はありがとうございました。

波多 和久

1971年千葉県生まれ。
1995年に世界文化社に入社。『Car Ex』編集部、 『Begin』編集部、『MEN’S EX』編集部を経て、2009年より『Begin』編集長に就任。現在に至る。

http://www.e-begin.jp/