35thスペシャルインタビュー ―senken h 久保雅裕編集長― セレクトショップは、消費者の成熟化に貢献してきた 35thスペシャルインタビュー ―senken h 久保雅裕編集長― セレクトショップは、消費者の成熟化に貢献してきた

35thスペシャルインタビュー ―senken h 久保雅裕編集長― セレクトショップは、消費者の成熟化に貢献してきた

35thスペシャルインタビュー −SENKEN h 久保編集長−「セレクトショップは、消費者の成熟化に貢献してきた」

35thスペシャルインタビュー ―senken h 久保雅裕編集長―
セレクトショップは、消費者の成熟化に貢献してきた

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繊研新聞社が発行するフリーペーパー『アッシュ』の編集室長であり、パリ支局長も務めている久保雅裕さん。本題である「STYLISH STANDARD(スタイリッシュスタンダード)」についてのお話しを聞く前に、まずはSHIPSが誕生してから35年間のファッションの歴史を語って頂いた。


――今回は、SHIPSが35周年ということでお話しを伺いたいのですが、同じ時期にBEAMSなども誕生して、いわゆるセレクトショップが日本に生まれた時代でもありますよね。まずはその歴史的な背景を教えて頂けますか?

久保 1975年にSHIPSの前身である『ミウラ』がアメ横に誕生しますよね。その’70年代から’80年代にかけての時期っていうのは、団塊世代(第二次世界大戦直後に生まれた、第一次ベビーブーム世代)が30代になるということで、「ニューサーティー」という新しいカテゴリーが生まれた時代なんです。それまでの30代はコンサバというか、わりとエレガントなプレタポルテ(既製服)を着ている人が多かったんです。一方で、多くの女性が社会進出をした時期でもあって、彼女たちは従来のようなコンサバティブなものではない、自分らしくスポーティで仕事にも耐えられるものを着たいという欲求が高かったんです。わかりやすい例が、イタリアンスタイルのスーツですね。また、マンションメーカー(デザイナーズブランドの前身)が大きく注目を集めた時代でもあり、デザイナーも団塊世代で、それを積極的に展開した販売店もまた同世代だった。そんな流れのなかで、日本のデザイナーズブランドが高度成長期とともにグングン成長していったわけです。
まさにそんな時期とかぶるように、「もっと海外に目を向けておもしろいものを並べようよ」という感じで生まれたのがセレクトショップの原点だと思うんですね。これまでの品揃え専門店が、国産ブランドと、輸入代理店が仕入れてくる海外ブランドを並べていたのに対して、自ら海外へ買いつけに行って、日本も海外も関係なく仕入れをおこなったのがセレクトショップの先駆けだと思います。

――これまでの洋服屋さんというか、品揃え専門店と何が違ったといえますか?

久保 ひとつは、先ほどもお話ししたように、世界を仕入れ先として考えた点ですよね。ふたつ目は、ファッションでとらえたトレンドをきちんとライフスタイルまで落とし込んだところですね。カフェをやったり、インテリア雑貨をやったり、いまでは家具やマンションまで手がけているところもありますよね。ファッションというのは、トレンドを簡単に表現できる手段なんです。しかし、ライフスタイルを変えて行くのは時間がかかります。セレクトショップはそこをしっかり提示することで、消費者の成熟化に貢献してきたと思います。

――消費者の成熟化と呼応するように、日本のブランドも世界的な評価が高まりましたよね。海外のセレクトショップでも普通に並ぶようになって10年以上経ちますが、日本のブランドはスタンダードな存在になったと思いますか?

久保 スタンダード、つまり普遍的な存在になったかと聞かれれば答えはNOだと思います。’90年代半ば「mastermind」がパリのWHO’S NEXTに出展したくらいから日本のメンズブランドがどんどん出て行って、「UNDERCOVER」や「ATTACHMENT」などもよく海外で見かけますよね。さらには「SAKAI」のように成功を収めているところもある。でも、パリのショールームの人から言わせると「日本のブランドは見ればわかる」と言うんです。

――そうなんですね。

久保 我々には気付きにくいですが、僕らも海外の展示会に行ったときに「あれっ、これ日本ブランドでは?」っていうときがある(笑)。

――そういわれてみれば、よくありますね(笑)

久保 その感覚がスタンダードなものかと言われれば、まだそこまで行ってないですよね。でも、YOJI YAMAMOTO、ISSEY MIYAKE、COMME des GAR?ONSといった御三家は別格です。彼らの登場以来、日本というものの見え方は大きく変わったと思います。現在もまだその延長線上にあって、その先というのはまだ持ち得ていないような気がしますね。

――とはいえ、何故日本のファッションは世界的に注目されるまで発展できたのでしょうか?

久保 最近は経済が低迷していると言われますが、2000年くらいまでは中流層が圧倒的に多かったわけですよね。OLさんが普通のサラリーで高級ブランドを買えるほど潤沢だった。ヨーロッパの階級社会では考えられないことです。その時代が長く続いたことで、感度がものすごく磨かれたんだと思います。また、日本人は昔から何でも受け入れて、それをミックスしてコーディネートする力が強い。その凄さにヨーロッパの人はびっくりして、東京のストリートファッション、ストリートスナップに注目が集まっているんだと思います。

――では最後に、SHIPSのコンセプトである「STYLISH STANDARD」を久保さん的に解釈すると、どんなものだと思いますか?

久保 スタンダードとコンサバティブをはき違えている人って多いと思うんですよ、紺のブレザーがスタンダードだとか。でも、そういうことではなくて自分らしさが大事なんです。どこかに、その人らしいアクセントがないものはコンサバでしかない。人っていうのは、「経験の幅」や「深み」からいろんなものが出てくると思うんですね。ファッションもその人なりの「深み」から醸し出されるものだと思います。なので、その人にとって確立したスタイルであれば、それはSTYLISH STANDARDだと言えると思います。


久保 雅裕

繊研新聞社 アッシュ編集室長 兼 パリ支局長。2007年4月までフリーペーパー『アッシュ』の編集長を務め、その後パリ支局開設の責任者となる。2008年8月に渡仏し、同年10月にパリ支局を開局。2010年7月に帰国し、現在に至る。