35thスペシャルインタビュー ―選曲家 桑原茂一さん―  「スタイリッシュって言葉は嫌いです」 35thスペシャルインタビュー ―選曲家 桑原茂一さん―  「スタイリッシュって言葉は嫌いです」

35thスペシャルインタビュー ―選曲家 桑原茂一さん― 「スタイリッシュって言葉は嫌いです」

35thスペシャルインタビュー ―選曲家 桑原茂一さん―
「スタイリッシュって言葉は嫌いです」

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SHIPS MAGでは、毎号の連載「一期一会」で毎回素敵なゲストとの対談を行っている桑原茂一さん。今回は、35周年企画におけるインタビューのひとりとして登場頂いた。桑原茂一さんが考える「STYLISH STANDARD」とは?


桑原 モダンって言葉は好きだけど、スタイリッシュってファッションヴィクティム(中毒)みたいじゃない? 「スタイリッシュだね」と言われたり、そういうのを見ると気恥ずかしく感じるんですよね。一方で、スタンダードっていうのはその人が一生をかけて作り上げるものだと思うんですよ。まだ自分もスタンダードを形成している途中にいるし、もし死んだ後に僕の何かしらがスタンダードになるとしたら嬉しいよね。

―スタイリッシュってよく使いがちな言葉ですが、実はすごく曖昧だったりしますよね。

桑原 「STYLISH STANDARD」って反語が一言になっているようなものだと思うんです。でも、クリエイティブの衝動として、まずスタイリッシュになろうとするのは仕方がないことかもしれない。創業して2〜3年の会社がスタンダードになるわけがないし、でもスタイリッシュは今日からでもなれるから。いま、突然変異のような奇異なものが時代の最先端としてあるのは、どこか世紀末な感じがしますね。一方で、感性が敏感な人やインテリ層は、スタンダードというか普遍的なものを求めている。その振り子の幅がすごく大きくなってきている気がしていて。戦前にエログロナンセンスが流行ったように、社会的に大きな不安があるんじゃないかな。311以降の不安や、世界的な資本主義の終わりをみんな感じ取っているんだと思う。

―確かに、なんか真ん中がぽっかり空いているような感じがしますね。今日は、「STYLISH STANDARD」をテーマにモノを持ってきて頂きましたが。

桑原 すごく悩んだんですけど、グラスを持ってきました。グラスってムダがないし、どこにもカドがない。多くの人が目を引くような、突出したものをいっぱい付けるのがスタイリッシュだと思っているから。そういう意味では僕にとってスタンダードなものになりますね。

―これはアンティークですか?

桑原 そうですね、僕は古いものが好きなんですよ。でも、懐古趣味ってことではなくて、1920年代の音楽でも今日初めて聴いたらそれは新しい音だと思っているし。ジャンルや時代も関係ない。ただ、時代を超えて奥深いところに刺さるものに何故か反応してしまうんです。義理の祖父が、刀剣の鑑定家だったことが影響しているのかもしれないですけど。幼いときからそういうものが家中にゴロゴロしてたんですよ。だから、民藝の運動とかは共感しますね。中でも僕はガラスが好きで、ついつい集めてしまうんです。透明で、カタチはあるけど壁がないように思えるところとか、光をたくさん集めるところとか。映画は光の芸術っていわれるけど、カメラのレンズにも魅かれるんですよね。

―どれもかわいらしく、シンプルで何とも言えない雰囲気がありますね。

桑原 デザイナーが入っていそうで入っていない、作為的でないデザインが好きですね。でも、結局は自分のお気に入りから割れてしまう。欲しいものはいつも傍にいない、そんな哲学的なことを思ったりしますね。

―ディクショナリー倶楽部のお庭では、素敵な小屋が建っていますが。

桑原 第6回目となったオルタナティブ・アートマーケットのART PICNICを開催(2012.728〜8.26)しています。今回は、「我々の未来はどっちだ!? 安全はどっちだ!?」っていう意味を、“矢印(ピクトグラム)”のモチーフに込めました。その名も「Rockn’ Arrow」、これはデザインで社会とつながっていこうとする、個人にも出来るチャリティ運動なんです。メインで参加してくれたのは、福岡のアーリー・バードというアンティーク専門の会社を中心に、名古屋や埼玉、富山などの5つの会社で結成したANTIQUESTIRA(アンテックとオーケストラの造語)。「こんな仕事もあるんだよ、馬鹿野郎!」が彼らの口癖で、社会的にはゴミと呼ばれるようなものに魂を入れて再生させる仕事をしているんですよね。その発想も表現も時代の最先端だと思うし、彼らのパワーは若い人たちへ希望を与えていると思いますよ。

―すでに価値が定まったアンティークというよりも、生活のなかで見落としがちなパーツというかハッと気付くようなかわいいものが並んでいますね。こういうユニークな若い人材と常に触れ合っている桑原さんも素敵ですね。

桑原 おもしろいことをしている人は、まだまだたくさんいますよ。東京の下町、入谷でゲストハウスをしている「toco.」という会社は、海外のバックパッカーを相手に1ベッド2600円で提供しているんです。それがすごくウケていて、次は蔵前に2号店を出すようですよ。彼ら彼女らは20代半ばです。また、ネットショップから始めて、いまは野菜の直売もしている若い八百屋集団「サンシャイングロウン」とかも30歳前後。若い人は時代の空気に敏感ですし、どこかでお金を介在したコミュニケーションから離れようとしている気がしますね。所有に対する興味がないというか。確実に新しい動きが生まれているような気がします。

BAR PIRATES

これはマイホープとして、いま一所懸命にやっているところです。将来的には僕のレコードコレクションを壁一面に図書館みたいに並べて、それをみんながライブラリーとして利用しながら、お酒も飲める場所にしたいんですよね。気に入ったレコードや、探していたレコードを見つけたら、その場でデータ化できるようにしたいんだよね。音楽が好きな人なら、毎日でも来たくなるような場所になれればいいなと思って。

BAR PIRATESのスケジュール
9/26',' 10/17',' 11/14',' 12/5',' 12/19 全ての日程18:00〜23:00

桑原 茂一

選曲家/株式会社クラブキング代表

1973年より米国『ローリングストーン』日本版創刊メンバー、'77年『スネークマンショー』をプロデュースしYMOと共演、1977-1997年『コムデギャルソン』パリコレを中心にしたコレクションの音楽演出を担当。 '82年原宿に日本で初のクラブ『ピテカントロプス』をオープン、'89年フリーペーパー『dictionary』を創刊、'96年東京SHIBUYA FMにて「club radio dictionary」を開始する。'01年の911を機に、独自の世界観をコメディという切り口で表現する「コメディクラブキング(CCKing)」を展開。現在、フリーペーパーdictionary、interFM_PIRATERADIO、スペース/ディクショナリー倶楽部などを統合した「メディアクラブキング(WEB)」を運営している。