35thスペシャルインタビュー ―TRANSIT 加藤直徳編集長 × BIRD 林紗代香編集長―  STYLISH STANDARDな旅のすすめ 35thスペシャルインタビュー ―TRANSIT 加藤直徳編集長 × BIRD 林紗代香編集長―  STYLISH STANDARDな旅のすすめ

35thスペシャルインタビュー ―TRANSIT 加藤直徳編集長 × BIRD 林紗代香編集長― STYLISH STANDARDな旅のすすめ

音SHIPS‐特別編・フォトグラファー永瀬沙世‐

35thスペシャルインタビュー ―TRANSIT 加藤直徳編集長 × BIRD 林紗代香編集長―
STYLISH STANDARDな旅のすすめ

Other

SHIPS MAGの連載「たまには旅に連れてって?」でお馴染みのトラベルカルチャー雑誌『TRANSIT』編集長 加藤直徳さんと、同誌のガールズ版である『BIRD』の編集長 林紗代香さんをお迎えした特別編。STYLISH STANDARDを切り口に、旅の醍醐味を語って頂きました。


――今回は旅を切り口に「STYLISH STANDARD」を考えていきたいと思うのですが、この言葉から連想される場所や風景ってありますか

加藤 基本的に『TRANSIT』では伝統的なところに行きたいっていう願望があるんです。伝統的っていうのは、観光地ではなくて現地の人が民族衣装を着ていたりするような場所のことですね。この前取材で行ったチベットもそういう場所を探して行ったんですけど、たまに古いものを着ているんだけどかっこいい人って出会うんです。鷹狩りしている人の首飾りがやたらかっこいいとかね。そうではない人が大半なんですけど、そのなかにキラリと光る人がいて。『TRANSIT』ではそういう人を常に撮影している気がするんですよね。そういうのあるよね?

 そうですね。

加藤 ちょっとこの人は着こなしがかっこいいなとか、どこかにアレンジが加えられていたり。STYLISH STANDARDと聞いたとき、僕らはいつもその感覚を探しているんだなって思ったんですよ。

 伝統的な場所って、お爺ちゃんとかがかっこいいですよね。

加藤 そうそう、オーバーサイズのジャケットにスカーフを合わせていたり。あきらかにオシャレなんですよ。それはまわりにいる現地の人もわかっていて。

 そういう国って、逆に若い人でおしゃれな人はいないですよね。似合わないジーンズをはいていたり。

加藤 女の子が派手なタンクトップを着ていたり、アメリカ風な格好になっている。全世界的に。そういうのは、あまりフォトジェニックじゃないから撮らないですね。

 若くてかわいい娘を撮りたいときは、お祭りとか行事を狙いますね。みんな伝統的な衣装を着ているので、彼女たちの良さが引き立ってかわいらしい姿が見られるんです。

――チベット以外で、民族衣装的なものが見られる場所はどこですか?

加藤 インドでは男の人が腰巻き(ルンギー)を身に着けていますね。あれにも流行があって、昔はもう少し形が違ったらしいんです。でも、30年くらい前に誰かが今ある腰巻きのデザインを作ったみたいで。見た目の美しさと、伝統的な要素もあって東アジアにいっきに広まった。風土に合った衣装っていのはどれもスタンダードですけど、そこにもゆるやかなトレンドがあるのはおもしろいですよね。

 フランス特集のときに、フランスの服飾史の変遷という企画をやったんですね。フランスは革新的なんだけど常にSTYLISH STANDARDですね。カツラはもちろん、付けボクロをしていた時期もあって。歴史的に美意識が高いですよね。

加藤 それにしても、STYLISH STANDARDっていい言葉ですよね。TRANSITは古いものを探しに行くことが多いですけど、そこには必ず新しいものがあって。その変化を記事にすることが多いんです。だから、STYLISH STANDARDっていうのはうちの媒体にもフィットしているんですよね。

――古いものを探すっていうのは、具体的にはどういう場所を求めているんですか?

加藤 特集の場所を決めるときは、漠然と“何かありそうなとこ”なんですよ。自分たちの住んでいるところが日本だし、東京なので、日常思っていることのヒントを探しに行くことが多いです。だから、時代性にも影響されますね。チベット仏教をやりたいと思ったのは、大麦とかバター茶を過酷な環境で食べてきた人たちの教えを知りたかった。それは、この先の未来、僕らが何もなくなったときにどうすればいいのかなっていう。そのヒントを読者に伝えたいと思ったんです。だから場所ありきではなく、みんなが気になっていることを場所を媒介にして紹介したい。編集者が考えるべきことは、そこからどう広げて、どう考えるのかだと思うので。

―― 一般的に旅先を選ぶ際は、観光地ありきですよね。でも、生きるヒントを探す旅というのは面白いですね。

加藤 もう10年近く言っているんですけど、まったく伝わってないですね(笑) みんなどこに行きたい、どこに行ったばかりで。スタンダードとスタイリッシュが分かれているんですよ、本当は一緒なのに。学生時代から、僕は旅から帰って来た人の話を聞くのが好きだったんです。インドとか東南アジアに行った先輩の話とか。みんな帰ってくると、完全におもしろい人になってるんですよ。女の子のことしか考えていないような先輩が、たまに遠くを見つめて人生を語ったり(笑) 旅って年齢とか経験の幅がグッと上がるんですよね。しかもそれが修行っぽくなく、自然に上げてくれるのが旅のおもしろい点ですね。

 私は妄想癖があるので、もし自分がこの村で生まれ育っていたらどんな暮らしをしていたのかを考えることが多いですね。そこから、今の生活に役立てられることを考えたりします。自分の生きている世界とはまったく違いますからね。

加藤 だいたい羨ましく感じるよね。モノがない、選択肢がないってことに対して。贅沢な見え方なんだろうけど、日本のようにすべてがいっぱいあるような場所から行くとそう感じる。

 そうですね。それは感じます。

加藤 遊牧民って3か月くらいで移動するんですよ。夏の時期になると標高を上げるんですけど、その理由がすごくて。涼しいっていうのもあるんだけど、「景色がいいから」って言うんです。それ聞いたとき泣きそうになって。遊牧民にとって「生きる死ぬで大変なのは冬で、夏はとにかく人生を楽しむためにある」と。確かに、そこは水が流れていて、星がきれいに見えて、見晴らしがいいんですよね。やっぱり人間はそういう基準で場所を選ぶし、夏の間だけは街に出て行った息子も帰ってきてそこに住んだりしている。人間だからみんな同じなんだよね。

――観光地を回る旅だと、どうしても現地の人とのコミュニケーションが薄くなってしまいますよね。現地の人と接するうえで、大事なことってありますか?

加藤 やっぱり基本は挨拶だと思うんですよね。チベットとかも最初は警戒しているんですよ。でも、現地の言葉で挨拶すると顔がいっきにゆるむんです。

 郷に入れば郷に従えじゃないですけど、インドでごはんを手で食べたらすごく仲良くなれましたね。褒めてくれて、サービスまでしてくれました(笑)。

加藤 現地の食べ方を汚いとかいう人いるでしょ? あれは失礼だよね。現地の人が何百年もその食べ方をしてきているわけだから、絶対そのほうが旨いわけじゃん。それなのにスプーンありますか? とかさ。それなら行かなきゃいいのに。

 自分の基準や価値観を変えようとしない人は結構いますよね。でも、それだと旅はおもしろくないですよね。

加藤 若い人もそうなってきているのが気になるよね。自意識過剰な人が多い気がする。

 傷つきたくないんですかね。私もインドのデリーでパスポートと財布を盗まれて、大使館で大泣きした経験があって(笑)。もちろん大変でしたし辛かったですけど、そういうことがあるからもう行かないとかは思わないですね。

加藤 大使館って結構優しいしね。そういうことも行かないとわからない。

―― 最後に、今一番行きたいところってどこですか?

 雑誌『NEUTRAL』をやっていたときに、月特集でロシアの宇宙飛行士に会いに行ったんですよ。そのときに「宇宙から見た地球がすごく美しかった」と聞いてから、宇宙から地球を見たいという夢が続いていますね。

加藤 僕は南極か北極に行きたいですね。行きづらい、世界の端っこには何か宝があると思うんですよ。


TRANSIT

「美しきもの」を求めて旅するトラベルカルチャー誌。インターネットの情報では得られない人間の息遣い、大地の鼓動、心を撃ち抜く一瞬がおさめられた写真の数々。また、地球を歩いて感じた生の情報とテキスト、そして旅行に役立つ大地図やミニガイドブックや、歴史や文化人類学が楽しく学べるコンテンツ、著名な作家や文化人のインタビューやコラムなど情報満載。最新18号「チベット」特集は9月14日発売!
www.transit.ne.jp

BIRD

知的好奇心の旺盛な女性へ向けて、『TRANSIT』の女性版として創刊。世界の美しい風景や文化(食・ファッション・映画・民族など)を「旅」というフィルターを通して紹介している。現地取材による美しい写真はもちろん、女性ならではの視点でセレクトされた魅力的なコンテンツの数々。創刊号の特集はアメリカ。写真の第2号ではインドを特集している。

加藤 直徳

1975年生まれ。編集者。出版社で『NEUTRAL』を立ち上げ、euphoria FACTORYに所属。現在トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長を努めている。

林 紗代香

1980年岐阜県生まれ。編集者。大学在学中の編集アシスタントを機に、『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、最終期に出戻り。『TRANSIT』副編集長を兼任しつつ2011年『BIRD』発刊。編集長を務める。