荒削りと繊細さが同居した戦後の時代の輝き 荒削りと繊細さが同居した戦後の時代の輝き

荒削りと繊細さが同居した戦後の時代の輝き

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荒削りと繊細さが同居した戦後の時代の輝き

その他

SHIPSの顧問でもありメンズ クリエイティブ アドバイザーの鈴木晴生氏に50〜60年代のライフスタイルの提案から見たファッションの空気とその魅力について伺った。戦後からアメリカでは家電ブームなどライフスタイルが大きく変わり、通販の先駆けでもあるシアーズの最盛期があり、雑誌や新聞で紹介されるファッションもイラストや写真にどこか生き生きとした空気があって、今見ても新鮮に映る。その魅力を語ってもらった。


僕は、リアルに50年代の初めっていうのを子供ながらに体感していますが、家にはPOSTとかSEARS、VOGUEといった雑誌がそこら辺にありました。当時あんまり物が無い時代なんで、目線に入ってくるアメリカの生活に皆が憧れをもって大人達が傾いていったというのを子供ながらに感じていました。特に雑誌から見て内容こそは読まないですが、目線で入ってくる部分はやっぱりニューライフスタイルっていうんですか、子供ながらも周りにある暮らしとは違う、新しく楽しい暮らし、何か希望を持てる暮らしというのを感じられたんです。それがまず一つ。写真は比較的モノクロが多いんですけど何かやっぱりイラストに色が付いてて、そのイラストが子供ながらに繊細だったのを覚えています。ディテールが細かく書かれていて、ノーマンロックウェルじゃないですけど、シューズの鳩目まで丸紐なのか平紐なのかきちっと描かれていて、デザイン性の完成度も高いし、説得力があったんです。逆に写真でこれらの事をやろうとすると、こうじゃない、あーでも無いとなるじゃないですか。だからその究極の美的感覚の完成度っていうんですかね、そういう物がライフスタイルとして出ていましたね。写真は写真の良さがあると思うんですけど、ああいうイラストを超える物っていうのには出逢ってないから、やっぱりこの時代の特徴だと思います。

それと、その後僕が生きてきた中でみんなそれなりに60年代70年代も良いんですけど、この50年代にしかない物って何かな、後ろの時代から振り返ってみると、後ろの時代の方がより現代に近いですから、自然ですし洗練されているんですが、でもこの時代は戦後の出来上がってない社会に皆が戻ってきて、そういう人達が世の中で活躍し始めた時代だから、やっぱりある部分では非常に研ぎすまされているんですが、ある部分は田舎臭いというか洒落て見えないんですね。それが共存している不思議な感じが出ていて、どちらかというと洗練されている部分は少ないけれど、エネルギーというかパワフルな部分が伝わってくるんですね。やっぱり独特の顔つきで、ある種の荒々しさと、その中にある繊細な部分が共存している所がファッションとして格好いいんです。その前の40年代はボールド・ルック一本でしたから、戦争中に求められた男性というのは強くてたくましい男というのが象徴であった故に、服はパッドがいっぱい入っていて、異性である女性からそういうたくましい男についていけば間違いないという風に思わせた風潮がありました。それが50年代に入り、女性にも参権が与えられ、社会進出して働く場を得た女性たちは、自分たちの主張や意思を伝えるようになる。そんな中求められたのは、今までの強いだけの男性像とは対照的な、ナイーブで少し女性的な繊細さを持った新しい男たちでした。それがセンセーショナルといわれたアクターズスタジオで学んだモンゴメリー・クリフト、マーロン・ブラント、ジェームス・ディーンと続くわけです。人々の身近な悩みや問題をリアルに演じられたことが共感体を高めた。そしてそのニューヤングリーダーの着ていたTシャツと洗いざらしのジーンズが人々に新しいインスピレーションを憧れとして持たせたのです。

第二次大戦終了後の1940代後半のアメリカ、テレビの時代に突入する直前の50年代のアメリカ、そしてコンピュ−タ−の時代になる前のアメリカ。アイビーリーガーの中から出てきたビートジェネの作家や詩人たち、若い俳優達も今までのハリウッドベースの連中ではなく、新しいNYべースのインテリ生活者、いわゆるニューヨーカーであった。伝統と歴史の上に成り立つNYシティの香りとニューイングランドのアイビーインフルエンスが程よく新しい時代表現として影響を及ぼした。それが50年代の悩めるアメリカの“青春の光と影”であったと思われます。この50年代に世に出たものは単なるスタイルの提案だけではなく、“精神的な主張”がスタイルの魅力と重なって強く影響をもたらしたように私には思えます。そのひとつがビート・ジェネレイションだと思います。


鈴木 晴生
潟Vップス 顧問 メンズ クリエイティブ アドバイザー


子どもの頃、父親がメールオーダーで取寄せた、シアーズの服を着る。その後、「サーフサイド6」などの米国テレビドラマに影響を受け、映画のファッションに憧れて名画座に通い始める。1966年、VAN JACKET INC.に入社。後に店舗管理職へ。1970年にテイジン メンズショップへ入社後、店長研修で米国を巡る。シャンタルデュモ「エーボンハウス」ブランドの企画に従事した後、独立して「メッサーフリッツ」ブランド(メンズ・レディス)を立ち上げる。1996年、シップスに入社。企画部長・執行役員を務め、2006年ワインレーベル フォー シップスをスタート。現在は顧問・メンズクリエイティブアドバイザーとして在籍。