フローリストchi-ko.さんの、“花”と“あそび”と“ゆとり”のある生活 フローリストchi-ko.さんの、“花”と“あそび”と“ゆとり”のある生活

フローリストchi-ko.さんの、“花”と“あそび”と“ゆとり”のある生活

SHIPS 2017春夏の展示会を華やかに演出したフローリスト、chi-ko.(チーコ)さん。『PADDLERS COFFEE 西原本店』など人気店への生け込みやワークショップのほか、東京・下北沢のショップ兼アトリエ『Forager(フォレジャー)』では、都会にいながらもリラックスした気持ちで日々を送るための“花のある生活”を提案しています。1日1日を丁寧に過ごしたい??そうは思っていても、慌ただしい毎日のなかにいると、ついつい忘れがちになってしまうもの。そこで、chi-ko.さんが大切にしているモノ・コトに着目して、理想の暮らしのヒントを探ってみました。

学生時代のアルバイトがきっかけで、フローリストの道を歩み始めたchi-ko.さん。大手フラワーショップから独立し、結婚・出産を経て現在のスタイルにたどり着くまでには、いろいろな決意や葛藤があったと言います。

「人の心は、健やかであるに越したことはありません。
そこに“楽しさ”や“ユーモア”がプラスされている状態が、私にとっては理想」


そう話すchi-ko.さんの今の生活は、どんなモノ・コトで形づくられているのでしょうか。浮かび上がってきたのは4つのキーワードでした。

白い花

寒い日には暖色系の花や暖かい地方で育つ花を多く仕入れるなど、ショップに置く花々の仕入れには毎回テーマを設けているそう。では、自分のお部屋に飾る花は、どんなふうに選んでいるのでしょうか?

「“今日はどんな気分?”と自分に問いかけてみて、心の状態に合った花を選ぶことが多いですね。元気なときや新しいことにチャレンジしたいときは、いつもは選ばないような色の花をあえて飾って気分を盛り上げます。反対に、心が弱っているときは、鮮やかすぎる花がそばにあるとちょっとツライ…。そんなときにおすすめしたいのが、白い花。白はいろんな感情に寄り添ってくれる色なので、眺めていると心が落ち着いてきて、自分とゆっくり向き合えるようになります。白のラナンキュラスやアネモネなどの繊細な花を、1輪でもいいので飾ってみてください」

美しく咲いているときだけでなく、枯れていく様子もまた心を落ち着かせてくれるのだとか。

「“がんばって咲いてくれてありがとう”という気持ちになるんです。10代・20代の頃はあまり感じなかったんですけど、年齢を重ねるごとにそういう感覚が芽生えてきました。フローリストは、花で祝福や感謝を表現するときもあれば、慰めや哀悼を表現するときもあります。でも、“哀しみに寄り添う花”や“悼む花”の本当の価値って、若い頃はなかなかわからないんですよね。人生経験が増えるにつれて、花で“喜怒哀楽”をより豊かに表現できるようになった気がします」

何物でもない小物たち

お気に入りの小物として見せていただいたのは、手のひらサイズのオブジェたち。人型のようなものや、くしゃっとまるめたようなものなど、なんとも不思議なオブジェが並びます。

「何を表しているのかも何に使うのかもわからない、“何物でもない”ものが好きなんです。商品として作為的につくられたんじゃなくて、作者の思いつきや偶然から生まれたような。私の好きな陶芸家の方がよくこういうオブジェをつくっているので、見つけては買って自宅やショップに飾っています。適当に置くだけで不思議なリズムが生まれるんですよね」

なぜ、“何物でもない”ものに惹かれるのか。その理由は、chi-ko.さんが理想とする生き方にも通じていました。

「東京で忙しくしていると、いつの間にか物事を真面目に深刻に捉えすぎている自分がいて。合理性を求めてしまうというのかな。そうなるとだんだん人生に“あそび”がなくなってきて、想定内の生き方しかできなくなってしまう気がするんです。ひとことで“何”とは言えない、何にも属していないものを身近に置いておくことで、自分の毎日にも“あそび”を残しているような感覚です」

孤高の人たちの人生を綴った本

「私、孤高の人に憧れるんです」

そう言って見せてくださったのは、数冊のハードカバー。自らがゲイであることを公表しエイズでこの世を去った、イギリスの映画監督であり園芸家のデレク・ジャーマン。アメリカ・ニューメキシコ州の大自然で晩年を過ごした、20世紀を代表する画家のジョージア・オキーフ。ナチスの迫害を逃れてイギリスに亡命した、ユダヤ系陶芸家のルーシー・リー。自身の人生を力強く生き抜いた著名人たちの写真集や作品集を、chi-ko.さんは特に愛読していると言います。

「たとえばオキーフは、旦那さんとの華々しいニューヨーク生活を手放して、ゴーストランチとアビキューの2つの家でお手伝いと庭師と暮らしたそうです。自分の意志を強く持っていて、パートナーや家族がいても依存せずに自立した人生を歩める。そんな人にすごく惹かれるんです」

気に入った本は、本棚にしまわず平積みにしていつでも読めるようにしているそう。

「朝、市場から帰ってきてお店を開ける前や、寝る前に、よく本を眺めています。じっくり読み込むというよりは、何気なくページをめくりながらその人の人生に触れていく感じ。忙しいときほど、無目的にぼーっとする時間をつくることを心がけています。日々に忙殺されるあまり、自分の本心や本音を見失わないように」

同志のような存在の息子

小学生の息子のママでもあるchi-ko.さん。お子さんの誕生は、フローリストとしての自身の生き方を見直すきっかけにもなったそうです。

「会社員としてショップに勤めていた頃、花を花として素直に見られないことに悩んでいた時期がありました。商売である以上、万人受けする花や誰もが扱いやすい花をそろえるのは当然なんですが、それが本当に自分のやりたいことなのかわからなくなってしまって…。そのタイミングで結婚・出産することになったので、“これを機にデトックスしよう!”と思い立ち、自分が本当に大切にしたいことをイチから考え直しました」

出産後、ほどなくして会社を辞め、フリースタイルで活動するフローリストとして独立。息子さんが物心ついてからは、自分の状況や心境を常に伝えるようにしてきたと言います。

「“子どもなんだから大人の事情は知らなくていいのよ”とは言いたくない。息子の意志を尊重してあげたいし、どうすれば毎日がもっと楽しくなるかを一緒に考えていきたいんです。以前、私が家庭のことで悩んでいたとき、”隠しごとはナシだよ!”“常に笑え!”と言ってくれたことがありました。息子とはなんだか、親子というより同志のような関係性です」

『Forager』の今年のニューイヤーカードは、息子さんが保育園のときに描いた絵。

「この抽象的な感じが気に入っていて。まさに“何物でもない”絵ですよね(笑)」

今回、SHIPS Daysプレス野海道のためにchi-ko.さんがつくってくださったブーケ。羽ばたく鳥のようなアルストロメリア原種系と、落ち着いたつぼみのシキミアで、芯のある大人の女性を表現してくれました。花が咲き終わったあとは、グリーンだけ残して別の花を組み合わせるという楽しみ方も。

晩冬から初春にかけてのイチオシは、球根。透明のグラスなどに入れて水に浸し、水が少なくなったら足していきます。つぼみが開いたり、新しいつぼみが出てきたり、花が少しずつ朽ちていく様子を、たっぷり2週間ほど楽しめるそう。テタテ、ムスカリ、トルケスタニカなどから好みの花をチョイスして。

Profile

chi-ko.(Chieko Ueno)

東京・下北沢を拠点に、基本的な生花のオーダーの他、花屋のポップアップショップやイベントの装花、雑誌の撮影やカレンダー製作などフリースタイルで活動しているフローリスト。シンプルだけれどグッとくる、コミュニケーションのきっかけになれるお花、咲いて朽ちる時間までを楽しめるお花を提案し続けている。2015年11月にはショップ『Forager』をオープン。

Shop Data
Forager

〒155-0033
東京都世田谷区代田5-1-16

※営業日・営業時間はInstagramをご覧ください。
https://www.instagram.com/forager_tokyo/

<CONTACT>
080-3425-9184
foragertokyo@gmail.com

<ACCESS>
京王井の頭線・小田急小田原線
「下北沢駅」西口2番出口より徒歩5分