AERA STYLE MAGAZINE 編集長 山本晃弘氏に訊く!   2017年、秋冬の“スーツ選び”はどう変わる? AERA STYLE MAGAZINE 編集長 山本晃弘氏に訊く!   2017年、秋冬の“スーツ選び”はどう変わる?

AERA STYLE MAGAZINE 編集長 山本晃弘氏に訊く!
2017年、秋冬の“スーツ選び”はどう変わる?

毎回、AERA STYLE MAGAZINE 編集長 山本晃弘氏を招き、ビジネスマンにまつわるルールを紐解く好評企画。山本氏曰く「今年はスーツトレンドの大きな転換期」。毎年耳にすることが多かった“クラシック回帰”がようやく本格的に始まったとのこと。今回は、それを見据えたうえで、これまでとはスーツの何がどう変わったのか? あらゆる角度からお伺いしました。

AERA STYLE MAGAZINE 編集長_2
「“クラシック回帰”とはつまり“英国調”のことです」

??いよいよ、秋冬シーズンが到来しました。今回は、今年のスーツ選びのポイントを、いろいろな角度でお聞きできればと思っております。

「はい。今年の秋冬のスーツは、“クラシック回帰”だといわれていますよね。 この言葉は、最近は毎日のように耳にすることがあったかもしれません。まず“クラシック回帰”とは何かといいますと、“英国調”への回帰のことなんです。なぜなら英国は、スーツが生まれた国ですから。ただ、紡毛で肩パッドもしっかり入ったひと昔前の英国調スーツを選べばいいかといいますと、なかなかそうでもなくなってきています」

??その“クラシック”や“英国調”をもっと詳しくいうと、どういうことなのでしょうか? 「それは、男性が男性的に見えるシルエットということですよね。肩パッドが入っていて、ウエストがきゅっと絞られています。最近の英国調スーツは肩パッドをそれほど強調していませんが、それでも肩から胸にかけて男性的シルエットを持った、構築的に見えるスーツということです」

??今年のスーツはこれまでよりも、そういう方向に変わってきているということですね。 「そうですね。それに伴って、着丈もこれまでトレンドだったイタリア調のスーツに比べて、長くなっています。具体的にいいますと、お尻が4分の3隠れるぐらいの長さです。さらにパンツのシルエットは、昨年よりも太くなる傾向が強まっています。ピチピチではなくて、ワンプリーツや2プリーツで腿周りが少しゆったりとしたものですよね」

英国調スーツ_1

着丈が長めでウエストが締まった英国調スーツは、これまでのトレンドだったイタリア調のスーツよりも男性らしいシルエットに特徴があります。

スーツ ¥74,000(+tax) / SHIPS

??なるほど。それでは色柄はどうですか?

「英国調になってくるとチェック柄が増えてきますよね。チェックは着こなしによってはカジュアルに見えるのですが、英国の王室や貴族も公の場で着ますから、ビジネスシーンで取り入れるのはアリなんです。さらにディテールの特徴で言いますと、ワイドラペルのジャケットやチェンジポケットだったり、ベルトレスだったりとたくさんあるわけです。ただ、それを全部盛りにすると、もはや英国調やクラシック回帰というよりも英国好きのコスプレおじさんになってしまうので、気をつけなければなりません」

??なるほど(笑)。では、そうならないためのポイントは、どんなところにあるのでしょうか?

「まず、スーツを選ぶときは、色、素材、形、ディテールなど、いろいろとポイントがありますが、それを全部盛りで英国調にする必要はないんです。このなかから、1つか2つ今のトレンドを取り入れる。でも、形は一番重要な要素ですので、必ず取り入れるべきです。そうなると、あとは色にするのかディテールにするのか、それを自分なりに吟味すべきだと思います」

「絶対に気にすべきは、着丈とパンツのシルエットだと思います」

??とはいえ、“英国調”という言葉は毎年よく聞きますよね。今年は本当に、“英国調に変わった” と言い切れるのでしょうか?

「やっと英国調が来た、機が熟したと言ってもいいと思いますよ。実際にシルエットや色、柄のトレンドが変わっただけではなく、ビジネスマンたちもそれを感じ取ってきています。AERA STYLE MAGAZINEのウェブサイトで、“今年の夏はボーナスで何を買いますか?”と、聞いてみたんですね。答えは4択で、スーツ、時計、カバン、靴としたのですが、回答は、スーツがダントツで高いんですよ。40%を超えて50%に近い。普通は靴やカバンを選ぶ方が多いんですが、これは何を表しているかというと、“今年はスーツの形が変わってきているぞ”と多くのビジネスマンが気づき始めているということなんです。これだけスーツが売れないといわれる時代に、異例のことですよね。それだけ今年は買い時なんです」

??ビジネスマンが、形が変わったことをもう感じ取っているんですね。それはトレンドが変わったといって間違いなさそうです。では、一番重要な形を今年らしい英国調で選ぶ場合、どこに注意すべきですか?

「絶対に気にすべきポイントは、着丈とパンツのシルエットだと思います。これまでずっとトレンドだったイタリアのスーツの特徴は、もちろんサイズの選び方もあるんですが、体にすごくフィットしているということだったんです。それに対して英国のスーツは、アンダーステートメント、すなわち上品であることが立ち居振る舞いとして大事なわけですから、できるだけ体を包み隠すように着丈が長くなって、パンツも緩やかなシルエットを保つ傾向が強いです」

??明らかに変わるわけですね。着丈は長めで、パンツはゆったりであると。先ほどジャケットの着丈は、お尻が4分の3隠れるぐらいとおっしゃいましたが、それを目安にすればいいのでしょうか?

「わかりやすい目安としてよく言うのが、“手を伸ばして指先でジャケットの裾が持てるぐらいの長さ”ですね。その前後の長さであれば、あとは好みでいいと思いますし、体型によって変わってきますので、スーツを購入するショップの方とよく相談されたほうがいいでしょう」

AERA STYLE MAGAZINE 編集長の着丈_1
手を伸ばしてジャケットの裾をつかめるかを確認。こちらの場合は、少し着丈が短い。昨年まではこのぐらいコンパクトな着丈が主流でしたが、今年はもう少し長めが理想です。

??パンツは、今までより緩やかになるということですが、ちょっと難しいというか、ハードルが上がりますよね。少し間違うと野暮ったくなってしまいそうです。

「そうですね。確実にハードルは上がりますね。これまでよりも、よりサイズに意識を払わなければなりません。もちろんイタリア調のスーツであっても男のスーツにとってサイズは命ですので、意識することは当然です。ただこれまでは、ピチピチにしておけばなんとなくスポーティで格好良くまとまって見えたものが、英国調になると、形のポイントポイントをしっかり押さえないといけない。肩はピチっと合ってなければならない、とはいえ、ボタンを閉めた時にジャケットに縦のシワができるのは、大きすぎる。パンツは程よく太くてもヒップにはダボつきがなく、膝周りから裾に向かって適度にテーパードがかかっている、というふうに微妙なポイントが増えますね」

「ぜひ3ピースにトライして欲しいです」

??それを聞くだけで、これまでよりスーツ選びの難易度が上がったと感じます

「だからこそ、しっかりとショップの人に相談をするべきですし、しっかり試着をすべきです。ただ、チャレンジをしていかないと、自分の洋服選び、スーツの着こなしは進化をしません。シルエットが変わる転換期こそ、ビジネスマンには格好良いスーツの着こなしにトライして欲しいですね。何もやらないのは、アンダーステートメントではありません。やってみて自分の上品さを見つけることが、本当のアンダーステートメントにつながると思います」

??なるほど。確かに今年は自分のスーツ選びを進化させるには持ってこいのシーズンですね。長さと太さの他には“クラシック回帰”で注目すべき点はありますか?

「ぜひ3ピースにトライして欲しいですね。ベストを着用すると見た目の効果だけではなく、暑さ寒さをコントロールするのにも便利ですし、もともと下着だったシャツを隠すという意味でも、すごくドレッシーに見えます。特に今年は、バリエーションも豊富です。ダブルのベストもあれば、襟付きもあり、胸元が大きくU字に開いたものもありますから」

3ピーススーツ_1

“クラシック回帰” のスーツを着るなら、今年は3ピースから始めるのもアリ。アンダーステートメントを体現する柄でVゾーンを整えれば、オシャレ度もぐっと上がります。Vゾーンが窮屈に見えないように注意も必要。

3ピーススーツ ¥148,000 (+tax) / Valditaro
シャツ ¥24,000 (+tax) /Errico Formicola
ネクタイ ¥16,600 (+tax) / Nicky

ベスト_1

“ベストをシャツの上に羽織るだけで、途端にドレスアップできます。温度調整にも一役買ってくれますから、とにかく便利です。

??確かにベストは、着丈やパンツのシルエット選びよりも簡単そうですし、すぐにトライできますね。

「そうなんです。ベストに合わせてベルトレスのパンツに挑戦するのもアリですよ。これ見よがしにウエストの横につけられたアジャスターを見せて着るのは、ビジネスシーンには合いませんが、ベストを着ればベルトレスのディテールが隠れますから。しかもベルトレスは一回トライすると、着心地もよくて快適なので、オススメです」

サスペンダー_1

ベルトレスパンツと同様に、英国調スタイルで活用できるのがサスペンダーです。ウエストの締め付け感がありませんから、ゆったりめのパンツを穿く際はオススメです。ジャケットで隠れるため、コーディネイトを気にする心配は無用。

サスペンダー ¥20,300 (+tax) / ALBERT THURSTON

??それはいいですね。ベストを上手に使えば、確かにスーツの着こなしはレベルアップしそうですね。

「でも気をつけないといけないのが、ベストを着るとVゾーンが狭くなることなんです。ネクタイのノットを大きくしすぎると窮屈に見えて格好良くありません」

??そこは気をつけたいですね。今ネクタイのお話が出ましたが、英国調スーツに合うネクタイはどんなものなのでしょうか?

「プリント柄がトレンドだと言われています。Vゾーンは、スーツ、シャツ、ネクタイのうちで、柄を使うのは1つか2つで抑えるべきです。でも今は、クラシックな英国調の極みとして全部柄で合わせる方もいますね。そのときに大切なのが、“柄は盛っても、色は盛るな”ということです。同系色のトーンオントーンにするなどの配慮が必要になりますね」

柄ネクタイ_1
サスペンダー_1

ネクタイの柄はコントラストが強いものやヴィヴィッドなものはもちろんNG。プリント仕様のペイズリー柄や小紋柄で、主張しすぎないのが鉄則です。織りで変化をつけた微妙な色合いのスーツに悪目立ちしないエレガントなものを選びましょう。

<左から>
ネクタイ ¥16,600(+tax) /Nicky
ネクタイ ¥16,600(+tax) /Nicky
ネクタイ ¥12,000(+tax) /Calabrese
ネクタイ ¥12,000(+tax) /Calabrese

「間違いのない小物を持つのも大事です」

??なるほど。だんだん英国調のディテールが見えてきました。そういえば、スーツの素材感はどうなのでしょうか? 数年前は温かみがあって立体的な素材感に注目が集まっていましたが。

「確かに、数年前にはブークレなどの立体的な素材感が流行したんですが、あれはもう、ちょっと恥ずかしいですよね。かつては英国調スーツには、紡毛のフラノ素材がいいと言われていましたが、もったりしていて日本の気候には暑すぎるように思います。今は無地に見えて、織りでいろいろな柄が入っているニュアンスのある生地が選び時だと思います。色はミディアムグレーやネイビーが主流で、それも少しだけ茶色が入っているとか、そういう微妙な色使いもいいですね」

今年を象徴するのは、パッと見は無地の織り柄。ネイビーやグレーの定番色にブラウンなどの微妙な色彩を織りで加えているものも多い。いずれにせよ、微妙なニュアンスのある柄が、今の英国調スーツの主流です。

織り柄スーツ_1
左から
スーツ ¥74,000(+tax) / SHIPS
スーツ ¥83,000(+tax) / SHIPS
スーツ ¥83,000(+tax) / SHIPS
織り柄スーツ_2
左から
スーツ ¥150,000(+tax) / LARDINI
スーツ ¥74,000(+tax) / SHIPS
スーツ ¥83,000(+tax) / SHIPS

??そういうスーツに合わせる靴は伝統的な英国靴でいいのでしょうか?

「そうですね。靴は一生モノのつもりで、英国靴を買えば問題ないと思います。 また、今シーズンのクラシックな英国スタイルには、ブラックスエードのドレスシューズもオススメです。秋冬のスーツとの相性もいいでしょう」

英国靴_1

ハンドソーンウェルテッド製法で作られたSHIPSのオリジナル。英国靴をモデルに、オリジナルの木型で作られた美しいフォルムが特徴です。アッパーには、英国の老舗タンナーであるチャールズ・F・ステッド社の上質なスエードを使用しています。

シューズ ¥37,000(+tax)/ SHIPS

??それにしても今年の秋冬はいろいろと変化があって、大変なシーズンですね。

「逆にいえば、やりがいのあるシーズンです。スーツを売るショップにとっても勧めがいがありますし、お客さんにとっても選びがいがある。でも、いろいろとやってみることは確かに大事ですが、やりすぎることはオススメしません。難しいシーズンですから、もしスーツであれこれ悩むなら小物を賢く使うのも手ですよね。黒のレザーブリーフや、上品な革小物など、間違いのないベーシックな小物を持つのも大事かもしれません」

アンダーステートメントなブリーフ_1

英国調スーツの着こなしに好相性なのは、重厚感と上質感を醸し出すベーシックなレザーブリーフ。こういった王道の小物を持つことは、絶対に“やりすぎ”に見える心配はありませんし、スタイル全体を引き締めてくれます。

バッグ ¥58,000(+tax)/ BOLDRINI

??難易度がちょっと上がるシーズンなので、できればスーツを数着トライしてもいいかもしれませんね。

「そうですね。2着ぐらい新調して、そのうち1着は、オーダーしてみるのもいいと思いますよ。早いタイミングで1着オーダーをして、シーズンが深まったところで、自分の得た知識を活用して既製服を選ぶというのがいいかもしれません。そういうことに積極的にトライすることで、自分の“スーツ道”が一気に進化するシーズンになるのではないでしょうか」

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山本晃弘 Teruhiro Yamamoto

AERA STYLE MAGAZINE編集長。MEN’S CLUB、GQ JAPANなどを経て、2008年より現職。最先端モードから服飾史に至るまで、ファッションに関するあらゆる見識を備えた“目利き”としても知られている。現在は、トークショーやイベントなどを通して、装いやファッションに関する素朴な疑問に答えるアドバイザーとしても活動。朝日新聞デジタルにて「男の服飾モノ語り」を連載中。

http://asm.asahi.com
https://www.amazon.co.jp/dp/B074BN8M2W