デザイナー田中千絵さんの、子育てが楽しくなる魔法のコトバ   ?前編? デザイナー田中千絵さんの、子育てが楽しくなる魔法のコトバ   ?前編?

デザイナー田中千絵さんの、子育てが楽しくなる魔法のコトバ
?前編?

グラフィックデザインやイラストレーションなど多彩な分野で活躍する田中千絵さん。プライベートでは2児のママで、独自の子育て方法やおしゃれなインスタ投稿が話題! SHIPS KIDSのワークショップで講師を務めていただくなど、実はSHIPSと縁の深い田中さんに、子育てにまつわるアレコレをインタビューしてきました。

田中千絵

「今はそんなことありませんが、もともと子どもはあんまり得意じゃなかったんです」と、インタビュー早々に驚きの一言を漏らした田中さん。メディアやSNSで“素敵ママ”として話題になっているだけに、子ども大好き!というイメージが強い田中さんでしたが、実はそうではなかったようです。

「でも、だからこそ、子育てとどう向き合っていくかフラットに考えられましたし、完璧な母親でいなきゃというプレッシャーもなく楽しく子育てができていると思います」。

そう笑顔で話す田中さんですが、実際にはどんな子育てをされているのでしょうか。今回はじめて語るというエピソードも交えながら、田中千絵流の“子育て論”をたっぷりとお聞きしてきました!

田中千絵_vol.26_A2
デザイナー田中千絵さんの、子育てが楽しくなる魔法のコトバ ?前編? デザイナー田中千絵さんの、子育てが楽しくなる魔法のコトバ ?前編?

「美大を卒業してすぐの頃は、『TSUMORI CHISATO』や『BEAMS』などファッションブランドのウインドウ・インスタレーションを中心に手がけていました。でも、仕事柄どうしても閉店後の夜間に働くことが多かったので、子どもが生まれてからはグラフィックデザインの仕事中心にシフトしたんです。ただ、パソコンを立ち上げると子どもになぜかギャン泣きされるようになって(笑)。それから手描きや手作業の表現方法を追求するようになりました。

育児中も仕事は続けていたので、子どもたちには早い段階から「大変なときはみんなで助けあっていこう!」と伝えていました。「家族という船の乗組員として、各自できることはやってください」って。仕事をしていても、していなくてもそうですが、「今日はもう何もできない」「ごはん作れない」みたいな日ってありますよね。そういうときは無理しないで、手を抜いたり子どもに頼ったりすることも大事だと思うんです。お母さんだってひとりの人間で、万能ではないですから。

うちでは、長男が中学に入った頃に生活のスタイルが大きく変わったので、家族の家事分担を一度見直して、長男と次男で家事表を作りました。まず家事を全部書き出して、そこから各自の希望を聞いたのですが、2人とも小さい頃からお料理をしていたのでお料理当番は取り合いでした(笑)。やりたいことや得意なことを優先して任せて、やってくれたら「ありがとう」「助かった」ときちんと伝える。そうすると子どもは自信を持つようになり、率先していろいろやってくれるようになります。

田中千絵_vol.26_A3 TREE FONT

子どもを巻き込んで仕事をすることも多いという田中さん。2012年に発表した自作フォント『TREE FONT』も、子どもと公園で木を拾ってきて、ワークショップのようにしながら一緒に楽しくアイデアを練ったそう。

家事表

長男と次男が自分たちで作った家事表。料理から洗濯、掃除、ごみ捨てにいたるまで、どんな家事でもこなせているのがスゴイ!

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長男も次男もお料理が大好き。きっかけは、長男が小学校の調理実習で青菜をゆで、それを我が家でも披露してくれたことでした。「青菜ゆでるの天才!」と私が絶賛すると、お兄ちゃんはそこから興味を持ち始めていろんな料理にチャレンジするように。それを見ていた当時5歳の次男がんちゃん(愛称)も、「僕もできる! やりたい!」と言ってくれたんです。子どもは「やりたい!」と思ったときが伸びどき! チャンスですね。

最初はシンプルに、パンとチーズを用意してあげてはさむだけにしたりと、失敗しないところから始めました。「そのやり方、効率悪いな?」と思っても口出しは我慢して、できあがったらとにかく褒める。今では、目玉焼きやサラダの朝ごはんから、ラズベリージャムなどの凝ったものまで作ってくれるように!

次男が作ってくれたごはんは、インスタで「#がんちゃんごはん」のハッシュタグにまとめています。インスタにアップして反響をいただくようになってから、本人もいただく「いいね」が嬉しいようで、盛りつけや彩りを研究するようになりました(笑)。

次男は手芸も好きみたい。私がハギレを使ってショートパンツを作ってあげたら、「パンツって作れるんだね!」と興味を示したので、一緒に手芸屋さんに行ったんです。お店の人と相談しながら布を買って、自分のパンツをはじめて自作。できることが増えてすごく自信がついたようでした。自信は大人になっても残る財産ですし、やりたい仕事を見つけるきっかけにもなるので、いいところは手放しで褒めて、子どもの“自信のかけら”を増やしてあげるようにしています。

田中千絵_vol.26_A3 TREE FONT

定期的にインスタにアップされる次男の手作りごはんシリーズ「#がんちゃんごはん」は、小学生とは思えないクオリティでファン多数。

家事表

田中さんが作ったパンツ(左)と、次男が好きな布を使って自作したパンツ(右)。ほかにも刺繍やお絵描きなど、ものづくりが大好きだそう。

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長男が小学校に上がったときは、環境が大きく変わって何かと大変でした。いわゆる小1の壁ですね。最初の1ヶ月は学童(放課後に子どもが過ごすところ)の終わる時間に学校まで迎えに行かなければならず、ときには下校する姿を後ろから隠れて見守ったりしていたので、私も落ち着くまでは仕事の量を調整したりしていました。

気をつけていたのは、何でもやってあげすぎないこと。学校から帰ってきて夕食までには教科書をそろえられるように工夫したり、忘れてはいけないことはランドセルを開けたところに付箋を貼るようにアドバイスしたり。毎日のタスクを書いた表も作りました。子どもが自立すれば親の時間や心の余裕が増えますし、何より本人のためになりますから、いいことずくめです。幼稚園時代によく作っていたのは、汽車にやるべきことを一つひとつ書いて、完了したら荷台にシールを貼っていく仕組みの忘れもの表。ところどころに「おやつ」「テレビ」など楽しいタスクも入れて、ゲーム感覚でできるようにしていました。

子どもが悩んでいるときも、できるだけ自分で問題を解決できるようにサポートしています。長男が小学校に入って、しばらくしたある日。ちょうど私が家にいたのですが、帰ってきてドアが閉まると、泣いていたんです。まずは好物のアイスを用意して落ち着かせてから(笑)、詳しく聞いてみることに。

大人でもそうですが、何か問題が起きたときは状況を俯瞰して見てみると解決策が見つかりやすいですよね。聞いてみると、クラスの班の決めごとで、自分の意見がうまく聞いてもらえないことがあったようでした。そこで、長男の好きなレゴを班のメンバーにたとえながら、「君の意見を聞いてくれなかった人はどのキャラクターにしようか?」「他のメンバーはどう思ってるんだろう?」「じゃあ、同じ意見の人はいる?」というふうに状況と気持ちを一緒に整理していきました。すると彼も彼なりに理解したらしく、次の日には笑顔で帰ってきました。班の子に自分の気持ちをちゃんと言えたみたい。

親が答えをすぐに教えるのではなく、自分で考える訓練をさせてあげることで、子どもは格段に成長するんですよね。彼は今では立派にリーダーもつとめているようです。

毎日のタスク表

田中さんお手製のタスク表は、汽車に車輪代わりのシールを貼っていく仕組み。ゲーム感覚で楽しみながら日課をこなせるようになるアイデア作品。(※幼稚園時代に使っていたもの)

レゴ

長男が小学生の頃、友達とのコミュニケーションに悩んでいたときに、状況を俯瞰して見るために使ったレゴ。これにより内気だった彼が自分の意見を主張できるように。

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長男が中学生になり、はじめて家族で海外旅行に行きました。独身の頃、私はバックパッカーみたいなこともやっていたのに、子どもができてからは旅行に連れていくのがなんだか怖くて。一度、初心者向けかなと思ってハワイに行こうとしたときもあったんですが、結局スケジュールが難しくなってキャンセルしちゃったんです。でも、長男がもっと大きくなったら家族旅行もできなくなるなぁ…と思い、仕切り直して行くことにしました。

遠足なども含め、子どもの頃の「連れていってもらった旅」って、あんまり記憶に残らないじゃないですか。なんとなく連れていってもらった飲食店の道順を全然覚えていないのと同じで、人間は受け身だと物事を吸収しないんですよね。だから、子ども主導でパスポートも一緒に取りに行きましたし、旅行代理店にも一緒に行きました。「ハワイは行ったことのある人がまわりに多いから、違う話ができるように別の国に行きたい」という次男の主張に「なるほど」と思ったので、ハワイをやめていろいろ話し合った末に、バリに行くことに。現地での予期せぬ事態など、子どもについての不安を少しでも減らせるように、添乗員つきツアーにしました。

私は旅行前にいろいろ重なって、ガイドブックすら読めずじまい…。でも、代わりに子どもたちが熟読してくれていて、空港で両替をするときに「1ルピアは○円だよ」と教えてくれたり、飛行機の中で「気温は○度くらいらしいから半袖になったほうがいいよ」などと教えてくれました。現地では、家族全員でバリの文化を楽しんだり、男3人が森で川下りしている間に私はエステをしたり、それぞれが旅行を満喫。子どもたちと海辺に立ち並ぶリゾートホテルをいろいろ見学して、何が違うのか、どこが好きだったか、ディスカッションしたりもしました(笑)。

帰国後は、お気に入りの写真をひとりずつパワポで発表! 旅行先での出来事をあらためて振り返ったり、ほかの人の視点や感想を知ったりすることで、思い出は記憶や経験としてしっかり自分の中に残ります。コミュニケーションが大好きな次男は英語が喋れなくて悔しかったらしく、帰国後に勉強をスタート。今では、英検を取得したりスピーチコンテストに出てみたり、新しいことにチャレンジしているようです。初の海外家族旅行で、行く前はやっぱり不安でしたが、結果的にみんなにとって有意義な旅行になったと思います。

バリ 家族旅行

はじめての海外家族旅行のバリで撮った写真。「連れていかれた」だけの旅行にならないように、パスポートの申請から旅行代理店まで子どもと一緒に行ったそう。

田中千絵_vol.26_A4

自宅近くにある田中さんのアトリエは、光がたっぷりと差し込む素敵な空間。子どもが描いた絵の中でも特にお気に入りのものは、額に入れてディスプレイ。

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バリ 家族旅行
Chie Tanaka
田中千絵
デザイナー/株式会社ストライプファクトリー取締役

1974年、東京都渋谷区生まれ。1996年、武蔵野美術大学造形学部 空間演出デザイン学科卒業。在学中に伯父である田中一光のもとでデザインを学び、卒業後はフリーで仕事をスタート。『TSUMORI CHISARO』の路面店や『BEAMS』のウインドウで、独自の世界観により展開したウインドウ・インスタレーションの作品群が話題になる。1998年よりストライプファクトリーでの活動を開始し、個人の活動と並行してCM映像やアプリの企画なども担当。デザイン全般、イラストレーション、アートなど、表現方法にこだわらず幅広いシーンで活躍している。著書であるペーパークラフトのアイデアブック『紙と日々、』(キノブックス)も好評発売中。

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