一期一会 選・桑原茂一  ゲスト:大塚博美 一期一会 選・桑原茂一  ゲスト:大塚博美

一期一会 選・桑原茂一
ゲスト:大塚博美

一期一会 選・桑原茂一

SHIPS'S EYE

ジャンルを超えた表現者が集まり、作家自身が主体となって作品との交流を持っていくクラブキング主催の「アートピクニック」。これまで7回に渡り開催され、現在の目標は2015年にパリで開催すること。今回はそんな「アートピクニック」にも参加している、手芸作家のミクラフレシアさんにご登場頂きました。ユニークな活動をしている女性からその生き様を伺うことで、読者の皆さんに新しい挑戦を始めるキッカケとして欲しいとスタートした「一期一会」。しかし、今回もまたONE & ONLYな生き様にただただ圧倒されてしまいました。


――まずはおふたりの出会いから教えて頂けますか?

桑原 アートピクニックというオルタナティブなアートマーケットを4〜5年前からやっているんですけど、その第2回に出展してもらったんですよね。僕がミクラフレシアさんを知ったのはインターネット。そこで巨大なタコの足を作っている人を見つけて、いまや手芸の世界ってこんなことになってるの!? と驚いたのがきっかけなんです。そんな経緯があって、今回はゲストにお呼びしました。まずは、そもそも巨大なタコを作るまでの経緯を教えてください。もともとは主婦だったんだよね?

ミクラフレシア そうなんです。幼い頃、母親がレース編みをしている姿を側でずっと見ていて。一本の糸が美しい模様になっていくのががすごく不思議でした。ある日、こっそり道具を拝借して覚えていた手の動きを真似したら何となく編めたんです。それが小学校低学年。それから見よう見真似で作るようになりました。中学生くらいからは好きな男の子にマフラーを編んだり、時には友だちの代わりに編んであげたり。その後は、編み物以外に古着をリメイクしたりブラウスやスカート、バッグ…ちょっとしたものは自分で作るようになりました。でも、自分では特別なことをしているという意識はなかったです。

桑原 普通の人よりも器用だけど、そこまでは一般的な手芸とか編み物の世界だよね。いまのようなスタイルになったのはいつくらいからなの?


ミクラフレシア 結婚して子どもが生まれてからですね。最初は、子どもが口に入れても安全な手触りのいいおもちゃを探していたんです。でも、あまり好みのものがなかったので、編み物やタオルなどを使って作り始めたのがきっかけですね。最初は子どものためだったんですけど、どんどん楽しくなってきて。気付いたら家の棚がいっぱいになるほどになってしまったんです(笑)。それを見た友人が「どこかに出してみれば?」ってアドバイスをくれたので、デザインフェスタに出展したんですね。そうしたらありがたいことに、今はもうないんですけど銀座のギャラリーの方に声をかけて頂いて。そのまま売る方向にシフトしていったんです。

桑原 トントン拍子に話が進んだんだね。それはいつ頃の話なの?

ミクラフレシア もう10年くらい前ですね。いきなり販売の道が開けて、しかも何を作ってもいいと言われたので自由にやるようになったんです。どうやら私は巨大にしてしまうクセがあるみたいで(笑)。いつの間にか大きなものばかり作るようになっていました。

桑原 でも、ギャラリーの方に声をかけられたときは家庭もあってお子さんもいて、環境が変わることに対しての葛藤はなかったの?

ミクラフレシア 作っているのが日常だったので、あまりなかったですね。その前から寝ずに作っていましたし。

桑原 そうなんだ。子どものために作っていたものは、普通のかわいいぬいぐるみなの?

ミクラフレシア そうですね。こういう感じのかわいらしいものを作っていました(Frickerの画像を見せる)。


桑原 へぇ〜、ちょっと恐いかも(笑)。普通には売っていないようなデザインだよね。でも、ミクラさんが生まれ育った栃木の宇都宮ってヤンキー文化が強いローカルエリアだよね? そこから世界に通じる奇異なものが生まれたことがおもしろいなって思うんだけど。

ミクラフレシア 奇異なものを作っているという意識はないんですよね。昔からよくいろんな人に「キモかわ」って評されるんですが、そう言われるとすごく傷つくんです。

桑原 そうなんだ(笑)。ということは、時代の風潮とはまったく関係なく作っていたのに、時代の風潮に寄せられた感じなんだね。

ミクラフレシア 自分では「キモかわいい」って言われる意味がわからなくて。でも、昔は人形とか表情があるものが多かったので、そう言われていたのかもしれないです。最近は作りたいものが抽象的になってきたので「キモかわいい」とは言われなくなったんですよ。

桑原 でも、おっぱい展(この夏、ブックギャラリーポポタムで開催された)の作品は「キモかわいい」というか「キモこわい」というか。ミクラさんが作った、巨乳でパーンと張ったおっぱいと、歳を取って枯れたおっぱいを表現したという帽子を見たときはびっくりしたもん。もはや手芸のジャンルじゃなくてアートな方向にあるよね。ミクラさんのお話しを聞いていると、誰かが偉そうに、これはアート、これは手芸、これは何とかって分けること自体がナンセンスだって思い知らされる。実際、最近はカテゴライズできないイベントが増えているし、そういう場所のほうがいまの時代を教えてくれる気がするんです。アートピクニックもそれを目指して作ったんだけど、いまや当たり前のことになっているのがおもしろいよね。ちなみに、ミクラさんのように手芸の世界で生きて行こうと考える若い人は増えているの?

ミクラフレシア いまの時代、作家ですと名乗れば作家だし、マーケットもあれば販売することも可能ですよね。選ばれた人がやるというより、やりたい人がアーティストになれるような間口の広い世界になっている気がするんです。なので、あとは名乗る本人の意識だけだと思うんですよ。誰の真似でもない唯一を生み出せるか。でも、手芸とか編み物だけで食べていくのはなかなか難しい…。その代わり、最低限の道具、針と糸とアイディアさえあればスタートできるんです。


桑原 確かにそういう時代だよね。ミクラさんはもともと手芸が好きでやっていて、いまはアーティストという感覚があるのかな。

ミクラフレシア 実はないんですよね。プロとして活動してる以上本当はいけないとは思うんですけど、自分の作ったものを作品というのがおこがましいというか…作品というよりこの手から生まれたもの。それはたぶん今後も変わらないと思うんです。常にイメージだけはアタマのなかに溢れるくらいにいっぱいあるんですけど。

桑原 なんか邪念がない感じがいいよね。何よりも作り続けていたいことが大前提で、そのために生き方を合わせていくやり方。それってある種の希望だと思う。最近読んだ『里山資本主義』っていう本には、一流大学を出て上場会社に勤めていた人が、辞めて田舎の小さな木工所などに働き口を求めるケースが増えているみたいなことが書いてあって。徐々に、何のために生きるのかを考え直し始めた人が増え始めている。


――最近は、うまいことやって稼いでいる人よりも、あるひとつのことに熱中している人にスポットライトが当たり始めていますよね。それはすごく健全なことだと思うんです。

桑原 以前なら不器用だと言われていたことに対して、どこか魅かれているような気がするよね。当然と思われていたことが、いろんな場面で揺らいできているというか。もう一回、本当は人間ってどうなの? って問われている気がする。ひとつ言えることは、巨大なタコもそうだけど、どんなカタチであれ、自分の内側にあるものをアウトプットする方法を見つけた人は幸せなんだと思う。

――本当にそうですね。みんなが驚くだろうという計算もほとんどなく、ミクラさんが巨大なタコを作っていたことに驚きました。

ミクラフレシア 編み物って無限の一筆書きのようなもので、続けたい意志があればどんどん大きくなって進んでいくんです。この大きさで作って欲しいと言われれば、その大きさに収めることもできるんですけど。図面を作らないので、手を動かしながら塩梅を見ながら、頃合いを見つけながらやっていると私の場合は結果的に大きくなってしまうんです。

桑原 今は影に興味があるんだよね?

ミクラフレシア そうですね。編んだものの影や揺らいだ感じとか、面が気になります。以前は、個やカタチがイメージとして浮かんだんですけど、いまはどこまで広がるのかわからないイメージしかないので。それに近づこうとして作っています。

――今後、作品展などの予定はありますか?

ミクラフレシア 今月末からのアートピクニックのおっぱい展といくつかのグループ展、クリスマスの頃にはお客様の持参した衣類などをその場で繕ったりリメイクするお直し会を予定しています。

桑原 アートピクニックは毎月1回やっているんだけど、11月末まではテーマを「おっぱい」にする予定です。真似したみたいで申し訳ないけれど。最初はおっぱいの展覧会って、気をてらったものになるかと思っていたんですよ。でも、実は女の人もおっぱいが好きなことがわかって。そう考えると、これほど境界線を越えるテーマはない。人間なら誰しも、最初に栄養を吸収するのはおっぱい。つまり、カタチはどうあれ戦えないものであり、人間にとっての宝なんだよね。目標にしている2015年のパリのアートピクニックでも、テーマの候補になる題材じゃないかと思っているんですよ。

――楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。

ミクラフレシア

「Knit or Die」を合い言葉に、手芸という固定概念を破壊し、妄想を指先で現実化する異才。糸や布、皮のみならず、鉄、アルミ、ワイヤー、ボルト、プラスチックから木類まで、編み、縫えるものなら全てクリエイティブの素材とし、羊毛を染め、糸を紡ぎ、作品を構築する中で、ファッション、アート、広告などのフィールドを問わず柔軟で新たな視点を提案し続けている。根源的な手芸の楽しさを味わえると評判の、独特なワークショップも要注目。
http://miquraffreshia.net