SHIPS MEN
FEATURE

アメリカンスーツの祖であり、アメリカントラディショナルの象徴である〈サウスウィック〉。2022年の春、この由緒正しきテーラリングファクトリーブランドがSHIPSの舵取りによって新たな船出を迎えます。伝統と精神、アイデンティティを継承しながらも、ノスタリズムに縛られず従来以上の魅力や価値を創出して進む航路。輝かしい歴史を紐解くとともに、生まれ変わった名門の姿をお伝えします。

Updated 2022.04.06

1929年、アメリカ・マサチューセッツ州。仕立て職人であったグリエコ兄弟が、小さなテーラーを開業したことから歴史は始まります。当初に手掛けていたのは、厚い肩パッドとシェイプされたウエストをもつ、構築的な英国スーツに影響を受けた製品たち。しかし'30年代に入ると、肩パッドを省いたナチュラルショルダーに胴絞りのない、対極的ともいえるボクシーなシルエットを考案しました。これこそが現在まで継承・確立されているアメリカンスーツの基本になったのです。また、スーツといえば個々のテーラーが手縫いであつらえる注文服であった時代に、職人の分業とマシンの併用によって工場で量産する既製服化にも着手。当時として極めて斬新であったそれは、実にアメリカらしい合理主義から生まれました。

その後、ブルックス ブラザーズ、J.プレス、ポール・スチュワートといったアメリカントラディショナルのトップブランド、西海岸屈指のメンズショップであるケーブルカー クロージャーズなどのスーツを一手に担い、さらには米海軍のブレザーも生産。かのエイブラハム・リンカーン、ウェルドレッサーとしても知られるJ.F.ケネディを筆頭に、多くの歴代アメリカ大統領や政財界の要人がブルックス ブラザーズのスーツやブレザーに袖を通してきたことは有名ですが、それを実際に仕立てていたのが〈サウスウィック〉なのです。

こうした輝かしい実績の数々は、既製品の枠組みを超えた別格のクオリティの証明でもあります。コスト削減のため生産拠点を海外に移すメーカーがほとんどのなか、自慢のクオリティを維持すべく頑なにメイド イン USAを守り通したのです。結果、米国製を貫く希少なテーラリングファクトリーとしても評価を高め、その優れた品質から2008年にはブルックス ブラザーズの傘下に入り、同社の最高峰ラインのスーツやジャケットを製作。引き続きアメリカ内外の名だたるショップやブランドの生産も請負いながら、自らの名を冠したハウスブランドでも目の肥えた紳士たちを満足させてきました。

SHIPSでは、ブルックス ブラザーズの傘下に入る前から取り扱いをスタート。以来、いっそうの上質を求める本物志向の方々から絶大な支持を集め、トレンドを超越して愛される存在に。しかし'20年、米国・ブルックス ブラザーズの経営破綻に伴って、惜しまれつつ〈サウスウィック〉も閉鎖。アメリカントラディショナルの灯火を絶やしてはならない強い想い、そして正しいカタチで後世につなげるべく、長く深い信頼関係をもつSHIPSがブランドのヘリテージを受け継ぐこととなったのです。かくして今シーズン、再起を果たした〈サウスウィック〉が新たな航海へと出港します。

新しい〈サウスウィック〉は、築き上げてきた長い歴史を継承しながらも、現代にフィットする新しい提案にもチャレンジしていきます。ディレクターに就任にした篠原が考えるブランドのこれからについて、3つの視点でまとめました。

「SHIPSはただ名前を譲り受けたのでじゃなく、歴史や文化まで含めて継承したと強く意識しています。その真髄こそメイド イン USAによる品質第一のものづくりであり、新生〈サウスウィック〉でも守り続けるコアバリューです。とりわけファーストシーズンの今季はそれを色濃く打ち出すべく、代表的なシグネチャーアイテムを中心に取り揃え、すべてアメリカ製にこだわりました。そして、これらをブランドの根幹をなすヘリテージラインとして今後も継続展開する予定です。主要なところでは、看板モデルであるネイビーブレザーのケンブリッジは、仕立てはもちろん生地やボタンもアメリカ製で。シャツは同じくブルックス ブラザーズの傘下にて最高峰ラインを担ってきたノースカロライナ州の名門シャツファクトリーといった具合です。こうした技術を要するプロダクトを米国で生産し、かつ従来どおりの水準を保つことは非常に困難ですが、SHIPSの現地オフィスがハンドリングしてファクトリーと密に組むことで、これまでと変わらないクオリティを実現しました。以前からのファンの方々にも、ご満足いただける仕上がりだと自負しています」

「これまでの〈サウスウィック〉の品揃えはスーツやジャケットに、シャツ、パンツ、タイが加わる程度でしたが、新たな試みとしてブレザーを中心としたウェアリングも提案します。ブレザーは汎用性がとても高く、合わせ方によってドレッシーな装いからカジュアルスタイルまで広い振り幅をもっている。そうした魅力を伝え、もっとコーディネートを楽しめるよう、従来にはなかった商品にもラインナップを拡げます。とはいえ何でもありではなく、〈サウスウィック〉が手掛ける必然性や“らしさ”は大切にしたい。今季であればポロシャツを用意していますが、これも以前になかった。ただしハイグレードを徹底するブランドらしく、素材には高級綿のギザコットンを。シルエットもアメリカらしい背中が長いドロップテールに。左胸のエンブレム刺繍は同色で控えめに飾って上品にまとめました。ほかにも、同じくギザコットンを使った無地のTシャツ、さりげなく刺繍をあしらったキャップも登場します」

「メンズファッションには、大きく分類すると軸となる4つのテイストがあります。ひとつはアイビー&トラッド、そしてミリタリー&サープラス、ワーク&デニム、スポーツ&アウトドアです。アイビー&トラッドは〈サウスウィック〉が担い、ほかの3本柱をテーマとしたコラボレーションを予定しています。さらにはカントリーオリジンを守る専業メーカー、確かな知識と柔軟な発想をもったクリエイターとの協業も。実際にカタチになるのは来シーズン以降ですが、それを起点に今までブランドを知らなかった方々や若い世代にもアプローチしていきます。また、近い将来には世界観を具現化したフラッグシップショップの出店、行く行くは故郷であるアメリカでの販売も叶えたい。既に米国のショップからも取り扱いのオファーが届いているのですが、まずは足元を固めることに尽力します。これらを通して魅力や価値をいっそう高めていきたいですね」

篠原 渉 ( Wataru Shinohara )

1972年(49才)石川県金沢市生まれ。学生時代は、大阪の老舗古着屋にてアルバイト。1994年SHIPSへ入社し現28年目。SHIPS 大阪店にて販売員を経験。その後、在店バイヤー、バイヤー、MD、同社ブランドのリブランディングのディレクション、新業態複合ブランドの立ち上げ、ディレクションを経て、現在はSHIPSメンズとSouthwickブランドのディレクション(責任者)を兼務。

  • Photography_Yuichi Sugita
  • interview & Text_Noyuki Ikura
  • Design & Development_maam.inc
  • Edit_MANUSKRIPT