SHIPS WOMEN
FEATURE

私らしく生きるために考えたい、今とこれからのこと。そのひとつのきっかけに『国際女性デー』があります。この記念日は、20世紀初頭にニューヨークで起きた婦人参政権を求めるデモやヨーロッパ全域で起きた労働運動を受け、1975年に国連が定めたもの。制定された3月8日は、“女性が平等に社会参加できる環境づくりを呼びかける日”となっています。女性たちが自分自身の権利を求め戦った時代から47年、ダイバーシティや女性活躍が推進される今でもなお、さまざまなシーンでジェンダー格差を感じることは少なくありません。

今回のSHIPS MAGは、自らをエンパワーメントしながら、しなやかに生きる女性たちにフィーチャーし、ライフステージの変化やそれに伴う人生の選択、理想とする社会について伺いながら、身近にある課題のひとつ、ジェンダー平等を考えます。表参道にある「logi plants & flowers」のデザイナーで、フラワーアーティストの宇田陽子さん、そして「Uhr(ウーア)」のオーナー兼ディレクターの濱中鮎子さんにお話しを聞きました。

Updated 2022.03.08

宇田陽子

(フラワー アーティスト)

今のお仕事を始められたきっかけについて教えてください。

「服飾の短期大学に通っていた頃、色の勉強の一環として花屋でアルバイトを始めました。同じ品種なのに、まったく違う形や色があること、その組み合わせ方が無限に広がる感覚に衝撃を受けました。お花の面白さや表情の豊かさに気付いてからは、一気にのめり込んでいきましたね」

2004年に独立された後に、西麻布にお店をオープンされていますよね。

「自宅をアトリエにして活動していたので、お店を持つことに対して特別意識していたわけではありません。きっかけは突然なのですが、とある出版社がオフィスを移転するからと、植物のディプレイを依頼してくださって。そこの社長さんとお話しする中で、「ビルの1階に花屋があったらいいな、宇田さんやらない?」と声掛けいただきました。今思えばすごい話ですが、悩みを抱く時間もなく「10秒で決めて!」と言われて(笑)。やるしかないかも、やっちゃえばなんとかなるかなと、ほぼ勢いで決断しました」

10秒の選択、まさに人生のターニングポイントですね。

「そこから一気に世界が広がりましたし、気負うことなく挑戦することの大切さに気付きました。それから3年くらい経った頃ですかね、2店舗目を考えたり、さまざまなお仕事をいただき始めていた時期に子供を授かったんです。フリーランスですし、夫も私の両親も大阪にいたので、身近に頼る人がいない不安な状況でした。経験がないのでわからないことだらけですし、産んだ後のことも、当時は想像することができなくて」

ライフステージの変化で変わったことはありましたか?

「子育てに100%向かってしまうと、今まで築いてきたことがすべてリセットされてしまうようで不安でした。それも相まって、大きいお腹を抱えて9ヶ月くらいまで働きました。変わったことといえば、私自身子供を授かったことにまだ気が付いていない時、友達から「なんだか作品が優しくなったね」と言われました。作品には不思議と自分自身の変化が表現されていたのかもしれません」

自分らしくいるために大切にしていることを教えてください。

「お花に出合う前の自分は、自己表現が苦手で、まったく自信がありませんでした。でもお花に出合ってから、そのすべてが変わったように思います。だからこそ、ママらしくいなきゃいけないとか、その場面場面で自分を変えるようなことはしないですね。私自身が私らしくいることを大切にしたい」

イタリアでは、『国際女性デー』にミモザの花を女性に贈る習慣があることから『ミモザの日』とも呼ばれています。

「ミモザを使った空間演出など、イベントでお声がけいただくこともありますが、お花を贈るきっかけとしても素敵な日ですよね。うちのお店では、その日に限らず、ギフトとして来店される男性のお客様は多くいらっしゃいます。お花を贈り合う習慣は、昔よりも増えているような気がします」

今年の国際女性デーのテーマは「持続可能な明日に向けて、ジェンダー平等をいま」です。植物を使った器づくりなど、持続可能な取り組みもされていますよね。

「お花を扱っているものとして、その命は最後まで大切にしたいと思っています。イベントや空間演出の仕事をしていると、想いとは裏腹に、活きた花を廃棄しなくてはいけない場面に遭遇します。そんな時、知り合いの陶芸家の北湯口淳氏から「植物は燃やすと灰釉薬になる」と教わりました。花たちに第二の人生があると知ってから、「life is.」というプロジェクトを始めました。岸が主に動いている活動ですが、サスティナブルだからと意識して始めたわけではありません。小さな良いことを続けていくこと。このマインドは間違っていなかったと、今感じています」

女性が自分らしく生きられる社会について、望むことや期待することはありますか?

「自分らしくあることは、他人と比べないことだと思います。器用な人もいれば、時間がかかる人もいる。私は後者のタイプでしたが、他人を羨むのではなく、自分ができることをコツコツと続けてきました。その努力の積み重ねが、最近やっと報われてきたように思います。頑張ってきて良かったって。私の息子は中学一年生なのですが、子供たちの世代には、男だからとか、女だからとか、ジェンダーに対する特別な意識、差別的な考えはなく、とてもフラット。時代が変わっているなと肌で感じますし、子育てを通して教わることはとても多いです。“子供は社会が育てる”、少し昔の日本的な考えではないですが、我が子だけでなく、まわりにいる子供たちに対しても分け隔てなく接することが大切だなと思います。同じ世代の子供たちが幸せだと、間違いなく自分の子供も幸せになりますから。この考えをみんなと共有していけたら、少しずつでも社会は変わっていくような気がします」

宇田陽子
(フラワー アーティスト)
宇田陽子(フラワー アーティスト)
角浩之氏・野村五月氏に師事した後、2004年に独立。2006年に東京・西麻布にコンセプトショップ「plans & flowers」を、2009年 に「logi plants & flowers」を表参道にオープン。また2014年には、アートワークとして新たなブランド「PAVILION!」をスタート。花そのものの強さと、時にその毒々しさもストレートに表現するクリエイターとして、空間ディスプレイや広告撮影、CMなどの装花を幅広く手掛けている。
logi plants&flowers
(ロジプランツアンドフラワーズ)
住所:東京都港区南青山3-14-10 シプレ南青山B1
営業時間:12:00〜19:00(定休日:木曜)
TEL:03-3403-0535

濱中鮎子

(Uhr ディレクター)

今のお仕事を始められたきっかけについて教えてください。

「ものづくりに関しても、働き方に関しても、30代半ばになってからは、自分のライフステージに合った仕事がしたいと思うようになりました。忙しく駆け抜けた20代と、やっと仕事の面白さがわかってきた30代。結婚をして、丁寧な暮らしをしていきたいと考えるようになって、まずは働き方を変えていくべきだと気付きました。単純なようで難しいのは、“好きなことを好きな人たちと共有し、仕事につなげていく”ということ。それを40代、50代に向けて実現したいなと。すべて自然な流れだったように思います」

ご自身のブランド「Uhr(ウーア)」の立ち上げや、独立されて大変だったことはありましたか?

「お金がいることと、事務的な手続きが煩雑だったことです。私には心強いパートナーがいたので、クリエイティブに専念でき、そういった環境に恵まれていたことは大きかったですね。女性であることを不利に感じたことはありませんが、「女性2人で会社を立ち上げてすごい!」と言われると、女性だからすごいのかな?と、ちょっともやもやすることはありました。この点に関しては、男女を論点にする必要性はないですよね」

女性だから我慢しなくてはいけないこと、考えることも多いですよね。

「大きな組織に属していると、少なからず女性として悔しい思いをすることはありました。妙齢だからか、子供は産むつもりあるのかといった、子育てで離脱する前提の質問を受けることもあって。それはもう絶句です(笑)!人事にも大きな影響を与えるので、キャリアを積みたいと考える場合、結婚や出産のタイミングを躊躇してしまうと思います。女性だと、強く意見をしても、小賢しいとか面倒だと思われかねない。あの有名な政治家が言い放った“わきまえない女”のように。男性が同じことをしたら、自分の意見を持っていると褒められたり。女性はおとなしく同調し、協力するものという考えが未だに根強く残る社会は、会社という組織にも大きく影響していると思います。職種によっては、独立の際もこうした壁は障害になりえるなとも」

ライフステージの変化で、ジェンダー格差について感じることも多いですよね。

「女性の社会進出は当たり前になりつつあって、管理職などの重要なポジションを担う女性は増えています。でも現実には、家庭内で女性が抱える役割、比重はあまりにも大きい。仕事の重責に加えて、家事や育児、その先には介護も待っていますから。女性がやってしかるべきと思われがちな「仕事」はとにかく多い。女性の働き方の変化に対し、社会がまったくといっていいほど、ついていけていないと感じます」

その上で自身の中で意識されたことはありますか?

「我が家では、育児を「義務」ではなく「権利」だということを夫婦間の共通認識にしています。「協力」ではなく、共に仕事も家庭も大切にできるように。子育てをしているなら尚更そこに幸せを感じられるようお互いが積極的に行動することを意識しています。その共通認識を持って過ごしていると、素晴らしい権利を自ら棄てるなんてもったいない!と思うようになっていくのです」

考えを変えるだけで、少しずつ社会が変わっていく気がします。

「そうですね。ただ、家庭が変わるだけでは難しいですよね。社会全体が男女の考え方に対して根本から変えていく必要がある。子供たちが社会に歓迎されているような環境になると、女性はもっと仕事も育児も楽しめますし。私たちの世代から変えていかなければと感じています」

女性が自分らしく生きられる社会について、望むことや期待することはありますか?

「政治経済に興味を持ち、声を上げていくことが何よりも大切だと思います。“自分らしく生きられる”とはどういうことなのか、立ち止まって考えたい。社会に対して、何もかも仕方ないと諦めていたら、次の世代、その次の世代も同じ思いをしてしまいます。政治家にはもっと女性が増えるべきだし、家庭内での男女差も、もうそろそろ世界標準になって欲しい。そうしていくことで社会的な課題は徐々に解決されていき、女性も男性も生き辛いことがない社会が実現すると思います。大学時代の恩師が『“経営=生活”であり、つまり活きて生きること』とよく話していて、今でも私の中で大切な言葉になっています。会社を立ち上げて思うのは、自分たちが良ければいいというスタンスではなく、社会の中で活きてこそ。微力ながら、個を大切にしながら、社会に貢献できる存在でありたいと思っています。そして「Uhr」を通して、一人でも多くの女性を幸せにできたら、なお最高です」

濱中鮎子
(Uhr ディレクター)
濱中鮎子(Uhr ディレクター)
1980年熊本県出身。大学卒業後、セレクトショップに入社。2016年に独立してからは、フリーランスでディレクターやPRを手掛けつつ、2018年春夏シーズンに自身がディレクターを務めるウィメンズブランド「Uhr(ウーア)」をスタート。

logi × Uhr FLOWER MARKET by SHIPS
3月12日(土)13日(日)には、SHIPS二子玉川店にて 「logi × Uhr FLOWER MARKET by SHIPS」を開催いたします。
「何事にもとらわれず 自由な発想で一つづつ ココロニノコルハナの新しいカタチ」 をコンセプトに、花そのものの強さと、時にはその毒々しさもストレートに表現するクリエイター集団 "logi plants&flowers" のスタッフが店頭にて皆さまをお迎えし、特別なブーケを販売いたします。
  • Photography_Toru Yuasa
  • Interview&Text_Maiko Narikiyo
  • Design & Development_maam.inc
  • Production_MANUSKRIPT