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FEATURE

映画『国宝』の大ヒットで、巷でも「歌舞伎を観てみたい」という声をよく耳にする今日この頃。歌舞伎の劇場として総本山のような存在である歌舞伎座と、SHIPS本社は徒歩7分ほどの距離にあり、実は“東銀座仲間”。今回は、歌舞伎座支配人・千田学さんに、紳士のための「はじめての歌舞伎鑑賞」について教えていただきました。
Updated 2025.11.19

歌舞伎座支配人

1967年、山口県出身。91年に松竹に入社後、道頓堀 中座(当時)、京都 南座、大阪松竹座、新橋演舞場、歌舞伎座それぞれで団体営業に従事した劇場運営のエキスパート。21年に歌舞伎座支配人に就任。

歌舞伎座のチケットは
どこで購入できますか。

通常のチケットは WEB (チケットWeb松竹)と電話予約(チケットホン松竹)、地下2階の切符売場でご購入いただけます。また歌舞伎座では4階に「一幕見席(ひとまくみせき)」を設けており、一演目だけでもご覧いただけます。前日の12時から WEB(歌舞伎座 一幕見席 オンラインチケット)で指定席を、当日ふらっと観たいという方は朝10時から歌舞伎座にて自由席を一幕見席切符売場で販売しておりますのでご活用ください。

歌舞伎は江戸時代では日の出から日の入りまでの興行でしたが、いまは1日の通しチケットというものはなく、月によって二部制か三部制をとっております。

舞台を楽しむ際の注意点は?

常時アナウンスしておりますのは、携帯電話の電源オフと私語や雑音、そして観劇中の姿勢です。スマホはマナーモードでもアラームは鳴りますし画面は光るもの。場内が真っ暗になる場面では、出演者から客席がよく見えるんです。するとスマホの光でお客様の顔が蛍のように暗闇にボウっと浮かび上がって、役者の集中力を削る要因になることも。また夢中でご覧になっていると前のめりになってしまいがちですが、後ろの席の方の視界の妨げになりますので、ゆったり座面に背中をつけて鑑賞していただければ。お客様もご一緒に歌舞伎座の空間作りにご協力をお願いいたします。

ⓒ 松竹

歌舞伎座では座席で
食事ができるのは本当ですか?

はじめての方は驚かれると思いますが、歌舞伎座の場合は幕間(休憩時間)でしたら、食事をとっていただいて結構です。舞台の準備もありますので、幕間は30分前後ございます。お席でお弁当を召し上がったり、ご予約いただき歌舞伎座内の食堂でお食事されたりと江戸時代さながらのゆったりとした時間の流れでお過ごしいただけたら。

江戸時代から芝居見物のつきものとして「かべす」という略語があるのですが、これは「菓子・弁当・鮨(すし)」のこと。芝居小屋というのは江戸時代の“社交の場”でした。正座して観るようなお堅いものではなく、ハレの楽しみの場所だったんですね。ですので、食事も歌舞伎の楽しみのひとつとして捉えていただければと思います。

席の選び方がわかりません。

歌舞伎座は約1900人が定員で、基本的に「まったく見えない」というお席はありません。少しでも近くで俳優を観たいのであれば特等席を選ぶのもひとつです。まずは歌舞伎座の雰囲気を味わいたいのであれば、5000円前後の3階B席でも十分お楽しみいただけます。

歌舞伎ならでということでしたら、両サイドの桟敷席をおすすめいたします。芝居という文字は「芝に居る」ですから、江戸時代は舞台の上にだけ屋根があり舞台前はゴザを敷いて座る青天井の状態だったんです。高貴な方は土間に座ることはできませんので、両サイドに屋根をつけて席を高くしておりました。いまから6、70年前の昭和のころは歌舞伎座の桟敷席でお見合いをすることもあったと聞いています。

歌舞伎座の場所として
なぜ東銀座が選ばれたのでしょうか。

もともと東銀座、江戸時代の名称ですと“木挽町”に芝居小屋があったんです。しかし幕府からすれば江戸城の近くに芝居小屋があるのは風紀を乱すとか防火上よくないということで天保の改革で浅草寺の裏に移されました。それが明治になって1889年に、オペラ座などの西洋の劇場に対抗して日本も西洋列強に恥ずかしくない劇場を作ろういうことで木挽町に歌舞伎座は建設されました。初代の歌舞伎座の外観は西洋風、内部は日本風の檜づくりで和洋折衷の劇場でした。歌舞伎座はよく敷居が高いと言われますが、そもそも単なる芝居小屋だと思われないように、どこの国の人が見ても立派で威厳があるように意識的に作ったというのが発端になっています。

お好きな東銀座グルメを
教えてください。

有名どころになってしまいますが、歌舞伎俳優もご贔屓にされている「ナイルレストラン」ですとか、歌舞伎座の裏手にある「アメリカン」でしょうか。銀座の三越、松屋から東銀座の歌舞伎座、そして築地と面的に広がって一帯がグルメスポットになっております。最近はさながら「裏歌舞伎座」のように、歌舞伎座の裏においしいお店が増えていますので、ぜひ好みのお店を見つけてください。

ⓒ 松竹

男性一人で行っても
劇場で浮かないものですか?
また内容は理解できるものでしょうか。

8割以上は女性のお客様ですが、男性おひとりで浮くということはまったくございません。
男性のお客様ですと物語の筋を深く追ったり、舞台背景などを細かく知りたいという方が多いのですが、たまに聞く「話がよくわからなかった」というのは「見取り狂言」で起こりやすいんです。作品のすべてを上演せず見せ場の多い作品の一部だけ上演するのが「見取り狂言」です。江戸時代からの人気作品は筋をご存じのお客様が多く、俳優による演じ方の違いを見せ場がたくさんある部分で観比べて楽しんだので、このような上演スタイルが生まれました。初めてご覧になるお客様には、前後の話がわからないことがあります。ご心配な方はぜひイヤホンガイドを借りていただければ。舞台の進行に合わせて、絵画鑑賞のようにバックボーンや「ここは見逃さないでください」というポイントを解説してくれますし、前後の話も紹介してくれますのでストーリーが理解できないということが起こりにくいかと思います。

ⓒ 松竹

演目の種類や選び方を
教えてください。

平成、令和になって新たに作られた作品は“新作歌舞伎”と呼ばれ、デジタル技術と組み合わせたり、人気のアニメや漫画作品とコラボレーションすることもあります。

一方で、映画「国宝」で取り上げられた『二人道成寺』や『曽根崎心中』などは江戸時代に作られた“古典”の部類に入ります。古典は東西それぞれ特徴があり、江戸の歌舞伎は「荒事(あらごと)」という隈取をしたスーパーヒーローが登場して、その主役を際立たせる。いまで言う「映える」ことに重きを置いた、デフォルメされた世界観を楽しむもの。関西では「和事(わごと)」という写実的な作風が多く見られます。実際にあった心中事件を題材に、近松門左衛門が二人が心中に至るまでをドラマ化したお芝居が『曽根崎心中』ですから。

歌舞伎はジャンルの幅が広く、お客様によってお好みがわかれますのでぜひいろいろな世界に触れてみてください。

「成田屋!」「中村屋!」のような
屋号を呼ぶ
「大向う(おおむこう)」は
どんなタイミングで?
素人が声をかけてもいいのですか?

大向うには登場シーンや歌舞伎独特の「見得(ポーズ)」や型を見せる場面で客席から屋号や「待ってました!」という声をかけ、俳優をより引き立たせる役目があります。実は「大向う」にはサークルのようなものがありまして、残念ながら誰もが声をかけられるわけではありません。簡単に見えて熟練度が必要で、いわば一緒に舞台作りをしてくださる応援団のような方々です。タイミングをはずしたり、屋号を間違えたりするのでは俳優も演じにくいですし舞台進行の妨げになってしまいますから。コロナ禍では大向うを禁止しておりましたが、俳優が見得をしたときに拍手だけではどうもサマにならないんですよね。

ちなみに12月の中村獅童さんと初音ミクさんがコラボレーションする超歌舞伎『世界花結詞 』はライブ型ですので、どなたでも大向うをかけていただいて結構です。

ここに注目してほしいというポイントは?

芝居だけではなく音楽、照明、舞台美術など歌舞伎を構成しているものは多岐にわたりますので、さまざまな切り口でご覧いただければと思います。舞台背景は大道具のスタッフが作品に合わせて演目ごとに描き上げますので、職人の技に触れることもできます。また舞台機構には、江戸時代に考案された「花道」や舞台中央の床を回転させ場面転換を劇的に速めた「盆(廻り舞台)」、大道具を昇降させる「セリ」などがあります。この舞台機構も歌舞伎座の特徴のひとつです。また古典では実際の事件を題材にしている作品が多いので、自分の子供を犠牲にしてでも主君に仕えるなど、いまの時代では考えられないような江戸時代の精神性を感じることができます。演奏家にも人間国宝がいらっしゃいますし、各ジャンルでその道の最高峰の方が携わってひとつの作品を作っているのが歌舞伎です。

SHIPSのファンの方はファッションへのこだわりをお持ちの方々だと思いますので、歌舞伎座をハレのファッションの楽しみの場として考えていただくのもよろしいかと思います。襟つき以外はダメなどドレスコードはとくにございません。昨今はハレの場が少なくなっておりますから、歌舞伎座を自分の余暇の引き出しのひとつにしてすることで、より豊かな時間を作っていただけましたら幸いです。

松竹創業百三十周年
十二月大歌舞伎

2025年12月4日(木)〜26日(金)

第一部 午前11時〜
第二部 午後2時45分〜
第三部 午後6時10分〜

【休演日】
10日(水)、18日(木)

【貸切日】
15日(月)第一部、17日(水)第一部、
20日(土)第一部
※幕見席は営業

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