「AERA STYLE MAGAZINE」エグゼクティブエディターの山本晃弘氏が、ファッションの世界に従事するプロフェッショナルを迎えて贈る連載「Over The Generation」。第4回目となる今回は、山本さんのメンズクラブ時代の先輩でもあり、スタイリストや、様々なブランドのコンサルティングで、幅広くご活躍のファッションディレクター森岡弘さんが対談相手。メンズクラブに在籍していた当時の思い出話から、今のファッションシーンまで、ざっくばらんに語り合います。
山本本日はお手柔らかにお願いします(笑)。当時の話から入りますと、森岡さんはメンクラの中では、主流派とはまた違った、モダンなかっこいいページを作っていた。私はファッション班ではなく、カルチャー班にいたのでうらやましく眺めていましたね。
森岡当時は、撮影用商品のリース、スタイリング、返却、執筆と、編集者がすべてやっていた。そうすると、服が好きな人と原稿書くのが好きな人となんとなく分かれてくるんだよね。僕は原稿を書くも何も、鉛筆なんか握ったことなかったから(笑)。山本さんたちはさらっと原稿を書いていたけど、僕は自分で見直しても変な文章書いているなって思っていたからね。
山本森岡さんはそんなこと言っていますが、すごく仕事が細かくて丁寧でした。コンテもきれいで、綿密に書かれるんですよ。私は原稿を書くのも取材するのも当時から好きでしたし、人の話を聞くのも好きで、カルチャー班にプライドを持ってやっていました。でも、割とノリで仕事をしているところもあって。二人とも結構遅くまで会社にいて、深夜からビリヤードやゴルフの打ちっぱなしに一緒に行きましたよね。
森岡仕事が大変という感じはなかったけどね、楽しんでやっていましたから。でも当時はね、メンクラではトラッドしかできないと思っていた。こっちの方がかっこいいでしょって思っている服があっても、借りることができなくて。それで外の世界を見たくなって独立した、というのはあるかもしれませんね。
山本フリーになって、スタイリストとして活躍されていますが、編集者とスタイリストってどういうところが違いましたか。
森岡編集部にいた時は、パンツの裾上げもアイロンがけも返却準備も全部自分でやる。あの時は、こんなこと何でやらなきゃいけないのって思いつつやっていた。でも、辞めてみるとそのありがたみがヒシヒシと感じるようになる。自分で勉強しなきゃいけない部分も多かったけれど、結局あの時の経験がベースになっています。やっぱり基本の”き”を知ることによって崩せる。”崩し”と”崩れ”の違いを判るのは、メンクラでトラッドを学ばせてもらったからだなって思いますよ。メンクラにいる時は、そんなの気づかないの。引き出しがそれしかないから。でも世の中に出て見た時に、いろんな人がいて、気づかされて、気づいた時にメンズクラブ、本当にありがとうって。崩しどころも含めてルールを教えてもらいましたから。
山本そう言う意味では、芸能人やセレブリティをスタイリングするときと、ビジネスマンをスタイリングするときは、はっきり切り分けているんですか。それとも一人ひとりを客観的に見たり聞いたりしながら、コンサルしていく感じなんですか。
森岡もちろん両方。プロのモデルは足し算ができる。基本形を80点作っておけば、メガネをかけさせても似合うし、帽子もかぶらせることもできる。でも一般の方であれば引き算の方がいい。そして、大事なのは、その方が何を求めているかを見極めること。仕事着なら当然”できる男”に見られたいというのが基本にあって、その上で信頼感が欲しいのか、親しみやすく見せたいのか、威厳が欲しいのか、何が欲しいのかキーワードを聞きますね。カジュアルであれば、どういう色が好きですかとか、どういうアイテムが好きですかといろいろ聴きながら、最終的にはどういうふうに見られたいかというのを聞き出します。そうすることで、だったらこれはいいですね、これはやめといた方がいいですよって、細かくアドバイスできるようになるんです。
森岡僕もフリーランスで、独立しましたけど、山本さんも雑誌を立ち上げるという大きな節目を経験されてますよね。
山本アエラスタイルマガジンを創刊した時、誰でも民主的にファションに取り組めるものを提示していきたいと思いました。うんちくと言わず、ルールという言葉で、「大事なのはセンスではなくルールです」というコンセプトを最初に掲げてやったんです。実は、覚えていらっしゃるかどうかわかりませんが、最初の号が出た直後に森岡さんにはお叱りを受けたんです。「地味な本だね」って。そこから1年半ほど経って、森岡さんから「山本がやりたいのはこういう意味だったのか、わかった」って言ってもらえた。つまり、着こなしを格好良く見せなきゃいけないんだけど、それを紐解いて”ルール”という言葉で提案するやり方は、誰もどこもやってなかったと。森岡さんに褒められたのは、すごく嬉しかったですね。
森岡今必要なのは、人を説得すること、納得してもらうことだと思いますね。やっぱり言葉がないと伝わらない。そういう意味では僕も編集者を経験してよかったと思います。
山本最近のビジネススタイルについてはどう思っていますか。
森岡以前は会社が先にあって、自分があった。でも今はもっと個人が立つ時代。自分がどんな人間かを服が代弁するということを、十分に認識しておく必要があると思いますね。
山本6、7年前、アエラスタイルマガジンの調査では、あなたのスーツの着こなしがビジネスにとって役に立つと思いますかという質問に、88パーセントがイエスと答えたんですよ。昔のビジネスマンはファッションなんか気にしてる暇があったら仕事しろ、みたいなところもありましたよね。あるいは今時のベンチャーの人は、俺どうせ仕事できるから格好どうでもいいです、みたいな感じもあります。それでは通用しなくなっているということに、多くのビジネスマンは気づいているんです。1年半ほど前にも調査したら数字は上がってるんです、96パーセントほどでしたね。
森岡英語が出来る、プレゼンスキルがある、それと同じように、着こなしもビジネスの武器の一つになるんですよね
山本スーツにスニーカーという提案も出てきていますが、その流れについてはどのような意見をお持ちですか。
森岡今のところ僕の周りでスニーカー通勤している人はいないです。日中歩き回る人にとってはいいでしょうけど、難しいのは、ある程度カジュアル感のある素材や色、ディテールのスーツであればスニーカーは合うけど、いわゆる普通の作りのスーツにはスニーカーは似合わない。クールビズでネクタイを外しただけの着こなしと一緒で、スニーカーを合わせただけではバランスが悪く見えてします。ネクタイを外すとか、スニーカーを合わせる前提で、服を選ばないといけない。シャツも変えなきゃいけないし。スニーカーで働くということ自体はいい流れだと思いますが、上手な着こなしが定着するには、まだまだ時間がかかると思いますね。
山本快適ではあるけれど、それが果たして仕事にとって有益かどうかというのは別問題ですからね。ちなみに、シップスのスーツスタイルについては、どのように見ていますか。
森岡一言で言えば、セレクトショップの中では一番お客様に寄り添っていると思う。この服はどんな人が着るんだろうと思わせるものがない。お客さんからすると、安心感や信頼感に繋がっていると思いますよ。ワードローブとして考えた時も、2シーズン前のアイテムでも合わせることができますし。
山本世界中のファクトリーを訪ねると、一番信頼してビジネスしているのはシップスだと、いろんなところで聞きますね。消費者のこともよく見ているし、作り手のこともしっかり見ている。「こういうふうに進化させて欲しい」とか、「次の年にはこうなって欲しい」とか、継続の中で洋服が進化していくっていうのがあるから、キチンともの作りができると、スーツ作りで有名なアメリカの工場の担当者が言っていました。
森岡今、時代の流れとしては”安定している人”が求められている。落ち着きがあって、穏やかで、仕事は真面目にこなす。シップスの着こなし提案や買い付けが安定していることは、時代にマッチしていると思いますし、しっかりと時代を捉えて気配りされているなと思いますね。
今季、森岡さんがオススメする
コーディネート2選
[スーツ編]
ネイビー系のスーツは鉄板ですよね。これは織柄が入っていて、色味のトーンとしては薄め。明るいけれどこの素材は秋冬感があって、洒落て見えると思うんです。タブカラーシャツは少し遊びがあり、襟元の変化も加わります。プレゼンがあるときなどはシンプルだけど柄幅に変化のある、レジメンタルストライプがさり気なくていい。また、ペイズリータイを選べばクラシック感もでる。この格好なら誰も嫌な思いをする人もいないし、むしろ程よいシャレ感があり好印象でしょう。
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スーツ ¥84,000(+tax) / SHIPS
シャツ ¥26,300(+tax) / Errico Formicola
ネクタイ ¥19,000(+tax) / Nicky
チーフ ¥2,700(+tax) / SHIPS
シューズ ¥39,000(+tax) / SHIPS -
スーツ ¥84,000(+tax) / SHIPS
シャツ ¥26,300(+tax) / Errico Formicola
ネクタイ ¥14,800(+tax) / Calabrese
チーフ ¥2,700(+tax) / SHIPS
シューズ ¥39,000(+tax) / SHIPS
[ジャケパン編]
今季のジャケットはチェックに注目です。遠目で見るとメランジ調の無色に見えるけど、生地感も立っていて洒落ています。パンツもちょっと緑が入っているようなグレーで、ジャケットの着こなしがワンパターンになるのを防げる。ネクタイは飛び小紋。スーツの柄とネクタイの柄の大きさが近いほど喧嘩するんですよ。だからそれは避けた方がいい。左のコーディネートのネクタイは、柄に隙間があるから合わせやすい。右は少し大きめの暖色系の小紋柄でさり気なく遊びがある。靴はローファータイプで、デザインで少し遊んでいるくらいが今っぽいスタイルです。
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ジャケット ¥110,000(+tax) / LARDINI
シャツ ¥12,700(+tax) / SHIPS
ネクタイ ¥19,000(+tax) / Nicky
チーフ ¥6,300(+tax) / fiorio
パンツ ¥37,000(+tax) / PT01
ローファー ¥39,000(+tax) / SHIPS -
ジャケット ¥110,000(+tax) / LARDINI
シャツ ¥12,700(+tax) / SHIPS
ネクタイ ¥19,000(+tax) / Nicky
チーフ ¥6,300(+tax) / fiorio
パンツ ¥37,000(+tax) / PT01
ローファー ¥75,000(+tax) / EDHEN
森岡 弘 | Hiroshi Morioka
ファッションディレクター&スタイリスト グローブ代表取締役
男性ファッション誌『メンズクラブ』編集部にてファッションエディターとして従事。10年間勤務した婦人画報社を退社後、独立。現在は、俳優からスポーツ選手、政治家、企業家まで幅広いスタイリングを行なっている。アパレルブランドやライフスタイルブランドのコンサルティング、広告ビジュアルやカタログ制作のファッションディレクションでも活躍中。
山本晃弘 | Teruhiro Yamamoto
AERA STYLE MAGAZINEエグゼクティブエディター兼WEB編集長
「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などを経て、2008年に編集長として「AERA STYLE MAGAZINE」を創刊。服飾史からビジネスマンのリアルなニーズに至るまで、あらゆる見識を備えた“目利き”として知られる。現在は、トークイベントで着こなしを指南する「服育」アドバイザーとしても活動。2019年4月にヤマモトカンパニーを設立し、現職に就任。執筆書籍に、「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」がある。